弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年7月14日

ボマーマフィアと東京大空襲

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 マルコム・グラッドウェル 、 出版 光文社

アメリカ軍による大空襲によって、東京では一夜にして10万人以上の罪なき市民が殺されました。B29が、大量の焼夷弾を投下したからです。
アメリカは、東京への無差別爆撃を世界で初めて敢行したのは日本。中国の重慶へ無差別爆撃を繰り返したのです。
大都市への無差別爆撃を敢行する前に、日本家屋をアメリカで再現して、ナパーム爆弾の効果を検証していたのです。本書を読んで、初めて知りました。
日本家屋は2戸ずつの棟が12棟、計24戸建設された。仕切りの障子、日本式の雨戸まで完璧に再現された。日本家屋に特徴的な厚さ5センチのわらの敷物(畳のこと)が重要。爆弾が階下に貫通するときの主な抵抗になるから。ナパーム弾を使うと、6分以内に制御不能になる等級Aの火災を日本家屋に68%の成功率でひきおこす。試算すると、ロンドン市内の可燃率が15%なのに対して、大阪中心部では80%、これは都市のほぼ全域。ナパーム弾は、燃えさかる粘着性ゲルの大きな塊をまき散らす爆弾。
粘着性のあるものを使うと、効果がずっと高い。何にでも付着して、輻射(ふくしゃ)熱を直接伝えるから。ナパーム弾は非常に威力が高い。カーチス・ルメイは、B29に最大限のナパームを搭載するため、防御手段は尾部機銃のみとし、余分な装備をすべて撤去した。要するに、日本人を効率よく殺戮することを最優先にしたのです。
3時間の攻撃のなかで1665トンものナパーム弾が投下され、41平方キロにわたって、すべてが焼き尽くされ、10万人をこえる人々が亡くなった。
作戦を遂行したB29の乗員は、基地に帰還したとき、ひどく動揺していた。地獄の入り口をのぞきこんでいる気がしたからだ。
この東京大空襲を敢行したカーチス・ルメイに対して、日本政府は1964年に勲一等旭日大緩章を授与した。よくぞ大量の「不要」な日本人を殺してくれました...というに等しい勲章の授与ではありませんか...。自民党政府が、ここまでアメリカに従属し、奴隷根性そのものであることに怒りとともに涙が抑えきれません。
この本は、精密爆撃が無差別爆撃かという論争が、アメリカとイギリス軍部であったことを明らかにしています。
精密爆撃は口でいうほど簡単なことではない。なにしろ、最大時速800キロで飛んでいて、高度9000メートルの飛行機から、爆弾を投下する。地上に落ちるまで30秒ほどかかる。これは大変な計算を必要とする。そこで、ノルデン爆撃照準器が開発された。
ナチス・ドイツのボールベアリング産業(工場)を連合軍の飛行機が爆撃した。ボールベアリンクは軍需産業の基礎をなしている。ところが、作戦に参加した乗員の4人に1人が帰らぬ人となった。あまりに高率が悪いとして中止された。ところが、ナチス・ドイツ側では、もし連合軍がボールベアリング工場への爆撃を続けていたら、まもなく、息の根が止まっただろうとみていた。いやあ、歴史では、そんなことも起こるのですね。
そこで市民の戦争意欲をくじくために都市への無差別爆撃が敢行された。しかし、攻撃が市民の士気をくじくことはなかった。かえって戦意を高めた。しかし、イギリスはそれを知っても、なお、ドイツは違うはずだと、ドイツの大都市への無差別爆撃を敢行した。
戦争というのが、いかに非人間的であり、非論理的なものであるが、今のロシアによるウクライナ侵略戦争のリアルな映像を見ても、つくづくそう思います。
(2022年5月刊。税込1870円)

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