弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年7月 8日

ひと喰い介護

社会


(霧山昴)
著者 安田 依央 、 出版 集英社文庫

著者は司法書士というだけでなく、ミュージシャン、そして作家だそうです。この本は司法書士の体験も踏まえたものということです。
孤立した高齢男性たちが、より孤独で残酷な死にひきずり込まれていくという救いのない状況が描かれています。登場人物の多くは、自分のことしか考えず、悪に立ち向かうヒーロー役が登場して悪人たちを退治するというストーリーではありません。残念です。
著者は巻末の対談の最後で、高齢者のあいだでも分断、孤立化がすすみ、そこに付け込みたい人にとって「入れ食い」状態になるだろうと予測していますが、私も放っておくと、そうなるだろうという気はしています。だって、認知症かそうでないかは簡単に判別できませんし、高齢者介護施設も千差万別ですからね...。
高額の寄付金を出させる高度のテクニック...。24時間、誰かが付き添っているオーダーメイド介護は1日4万円とか6万円もする。
意思能力が完全に欠如していれば、成年後見制度が残っているのですが...。
高齢の入所者たちは、話し相手を渇望している彼ら彼女らから話を聞きだすのは非常に簡単なこと。プライバシーに関わることすべて、親族のこと、資産状況をふくめ洗いざらい引き出してしまう。
陥れられて入った施設では、四六時中、甘いものを与えられ、歯をみがくのを嫌がった結果、もともと多かった虫歯を悪化させ、次々に歯を失って、ついには、咀嚼ができず、流動食しか食べられない状態に置かれてしまう。すると認知症がさらに進行する。
介護施設に親を預けたまま、面会に来ない人も少なくない。
言葉巧みに高齢の人に接近し、その人の子まで引きずり込もうとする。今や恐るべき社会になっている。
この本を読むと、「いかに安らかに余生を過ごす」という施設でインチキが起き、それがバレないというのです。起こりうる話なので、明日の我が身...と考えざるをえませんでした。騙されてしまったという惨めな気分を味わうことになりますが、これも社会に存在するのでしょう。身が震えてしまいます。明日は我が身なのではと...。
(2018年12月刊。税込847円)

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