弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年6月16日

英語の階級

イギリス


(霧山昴)
著者 新井 潤美 、 出版 講談社選書メチエ

イギリスで生活するって、大変なことなんじゃないかなと、つい思ってしまいました。なにしろ、最初に話した一言を聞いて、相手は、「あ、この人は、このくらいの階級だ」と無意識のうちに考えてしまうというのです。
なので、1922年にBBCがラジオ放送をはじめたとき、アナウンサーがどんな英語を話すべきかが問題になった。誰からも反感をもたれない英語は何かということです。だから、「アッパー・クラス」(上流階級)英語ではいけないのでした。もちろん「コックニー」英語でもいけません。「コックニー」とは、ロンドンの人間というより、ロンドン人のなかでもワーキング・クラスのロンドンっ子が話す独特の発音と表現のこと。
RP(標準英語)を普及させるのは大変だったようです。
著者が寄宿舎仕込みのRPを話すと、相手は、「だいじょうぶ、お嬢ちゃん?」と話していたのが、「どうぞ、奥様」と、がらりと態度を変えるのだそうです。すごいですね、これって...。
イギリスには、「アッパー・クラス」、「アッパー・ミドル・クラス」、「ロウワー・ミドル・クラス」、「ロウワー・クラス」、「ワーキング・クラス」が現存している。
「礼儀正しい」英語を話す人は、必ずしも「アッパー・クラス」ではない。
小説や演劇では語り手が使う単語や、表現・文法などによって、語り手の階級や社会的地位がはっきり示される。
自分の社会的地位に対する自信のなさから「上品さ」を目ざすのが「ロウアー・ミドル・クラス」だ。
イギリスでは、言葉のなまりは、話者の出身地という地理的な要素だけでなく、話者の出身階級をも表す。
「アッパー・クラス」と「アッパー・ミドル・クラス」の人は、どの土地に住んでいようと、どこの出身であろうと、地方のなまりのない、「標準英語」を話す。
イギリスでは、ある階級以上の人間は、どの地域にいても、同じ種類の英語を話す。それは、子どもたちが学んだ私立の寄宿学校・パブリックスクールで身につけることによる。
イギリスの一断面を知ることができる、面白い本でした。
(2022年5月刊。税込1705円)

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