弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年6月15日

人として教師として

人間


(霧山昴)
著者 湯川 一俊 、 出版 東銀座出版社

団塊世代からのメッセージというのがサブタイトルの本なので、これは読まずばなるまいと思って手にとって読みはじめました。著者は、私とほとんど同じころに北海道で生まれました。最東端の根室市で、屯田兵の末裔(まつえい)とのこと。
小学校は1学年350人、全校2000人というマンモス校。私のほうは炭鉱の町で、小学校は1学年4クラスでした。私の中学校(今はありません。少子化で統合されました)は13クラスあり、運動場の一部を削ってプレハブの急造校舎がつくられました。
高校生のときに教師になることを決意したというから、偉いものです。私は、そのころは自分の将来に何の具体的イメージもありませんでした。
そして、著者は高校は演劇部と新聞局に入って活動しました。私は、高校のころは受験勉強を真面目にやり、生徒会活動にいそしんだほかは、3号で終わった同人誌をみんなで出したくらいです。生徒会に目ざめたのは1学年上の先輩たちにあこがれ、近づきたいと思ったことによります。
北海道学芸大学釧路校に入ってからは児童文学サークル「つくしの会」で活動し、また、自治会の役員にもなっています。私は、ひたすら川崎市古市場での学生セツルメント活動に埋没・没頭しました。
そして、著者は苦労の末に東京で本格的な教員生活をスタートさせます。1970年代の東京の小学校では、児童会の役員選挙のとき、立会演説会をやっていました。選挙公報をつくり、朝の教室まわりもやったのです。いやあ、いいことですよね。こうやってこそ、主権者としての自覚が高まります。
私も高校生のとき、生徒会長に立候補し、タスキをかけて付き添いと2人で全クラスを休み時間に訴えてまわりました。幸い当選しましたが、こうやって選挙を自分の体で実感したことは私の体に今も生きている気がします。
著者は、卒業式が終わったあと、教員で温泉に旅行に行ったというのですが、行った先はなんと奥鬼怒温泉の「八丁の湯」でした。私も川崎セツルメントの夏合宿で行ったことがあります。見晴らしのいい露天風呂がありました。
著者は小学校で理科を教えるとき、子どもたちに体験を通じての学習をすすめたとのこと。本当に大切なことです。たとえば、空気にも重さがあることを子どもたちに実感させるというのです。いやあ、これはすばらしい実験です。
著者は教職員組合の役員を長くつとめていますが、そのなかで大切にしたことは、仲間と会うとほっとする場、職場会を大切にする、心のよりどころをつくるということ。たしかにこれは必要不可欠ですよね。
私と同じ団塊世代が過去をふり返りつつ、今を元気いっぱいに生きている様子を知ると大いに励まされます。久しぶりに空気の入る、いい本でした。
(2022年4月刊。税込1800円)

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