弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年6月 9日

蒙古襲来絵詞復原

日本史(鎌倉)


(霧山昴)
著者 服部 英雄 、 出版 海鳥社

これは、すごい本です。ぜひみなさん手にとって見てほしい本です。
文永の役(1274年)の蒙古襲来のとき、元軍を迎えうった日本軍の一員だった竹崎季長によって制作された「蒙古襲来絵詞」がカラー図版で見事に再現されていて、圧倒されます。巻頭の27頁もあるカラー図絵を眺めるだけでもワクワクしてきます。なんと素晴らしいカラー彩色絵でしょうか...。
もちろん原本の絵もあります。でも、白描本という線だけの絵とカラー彩色絵を三つ並べて鑑賞できるのです。いやはや、こんなに極彩色だったとは恐れ入りました。
中国(元軍)の最先端兵器は火薬を使う砲弾(てつはう)。轟音を発する見知らぬ兵器に日本軍は、人も鳥も脅えた。火薬の材料は、硝石・硫黄・木炭で、硫黄は中国大陸では不足していたので、火山国である日本で産出したものが中国(宋)に輸出されていた。元は敵対国(宋)への輸出を断ち切り、硫黄を直接入手したかった。軍需物資を得るため、日本を従わせようとしたのが元寇だ。
中国軍は、言語の異なる複数民族(蒙古・漢・高麗)から成り、著しく統一性を欠いていた。東路軍と江南軍は最後まで合流できなかった。初めての海外遠征で不慣れが多く、予定どおりの進軍ができず、作戦計画は非現実的だった。
この本では、「蒙古襲来絵巻」ではなく「絵詞」としています。宮内庁も国定指定名称も「絵詞」になっています。
「絵詞」は、熊本、細川藩家臣の大矢野門兵衛の所有であり、明治時代にはその子孫の大矢野十郎が所有していた。そして、明治天皇に献上された。
模写彩色本は、文政4(1821)年にできている。
「蒙古襲来絵詞」には絵の巻と言葉の巻があり、絵を見る人とは別に、声を出して詞書の巻を読む人がいた。草書は見慣れて読みやすく、楷書のほうが読みにくかった。うひゃあ、まるで今とは逆ですよね、これって...。
日本の大弓は2.4メートル、蒙古の弓は半弓で、1.8メートルなかった。日本の大弓は強力で遠くまで届いたが、長いので操作性は劣った。蒙古の弓は連射性・起動性には優れている。近距離だと、日本の弓を蒙古の竹で編んだ盾では防げなかった。
元軍は人数では日本軍に劣ったが、兵器・火器ではまさっていた。しかし、元軍には不慣れな海外遠征であり、作戦ミスもあった。
ともかく、合戦の模様が江戸時代の模写にせよ、こんなにくっきり鮮明に彩色されていたなんて、全然知りませんでした。もっと広く知られていい模写彩色本だと思います。ご一読を強くおすすめします。
(2022年3月刊。税込3850円)

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