弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年4月21日

ノブレス・オブリージュ、イギリスの上流階級

イギリス


(霧山昴)
著者 新井 潤美 、 出版 白水社

イギリスやフランスには、今でも実は上流階級が厳然として存在していると聞きました。今でも貴族が実在しているというのです。驚きます。日本でも旧華族が幅をきかす社会が東京のどこかにあるのでしょうか。昔は学習院大学がそのバックボーンになっていたようですが、今はどうなんでしょうか...。
イギリスの上流階級って、いったいどんな生活をしているのか興味本位で読みはじめました。
イギリスの貴族がヨーロッパの貴族ともっとも違うのは、爵位が長男しか継がれないこと。イギリスの貴族は、息子たちはみな長男と同じ教育を受けるが、成人に達したとたん、勝手に自活するようにと、家を追い出される。次男以下の息子は、「ヤンガー・サン」と呼ばれ、爵位も財産も継げない。かといって、彼らはどんな職業についてもいいわけではない。そこで、聖職者や、軍の士官、外交官そして法廷弁護士を目ざすことになる。
貴族の息子であっても、次男以下は、爵位がなく、土地の相続もできずに、何らかの職業につかざるをえない。したがって、ミドル・クラスの仲間入りをする。
そうすると、同じ家族であっても、アッパー・クラスとミドル・クラスが混在することになる。
同じ家族でも、親戚でも、さまざまな階級に属し、異なった境遇に身を置くことになる。
貴族たちは、19世紀の終わりころから、屋敷と土地の維持のため、アメリカの富豪の娘と結婚するケースが少なくなかった。相続した屋敷と土地を維持し、社交を怠らず、毎週末にハウス・パーティーを招く。
このような「ノブレス・オブリージュ」には、相当の財力と、それをなしとげるだけの気力、体力そして資質が伴わなければならない。しかし、19世紀後半、土地からの収益は減る一方だった。
アメリカの富豪の娘たちが19世紀後半から20世紀初めにかけて次から次へと(100人以上)、イギリスの貴族と結婚したのは、持参金もさることながら、彼女たちの育て方からくる魅力が大きかった。彼女たちは外見にお金をかけていただけでなく、社交的で自信にあふれていて、ヨーロッパの社交界に入っても臆するところはなかった。
アメリカの富豪の娘は、イギリスと違って、相続人の一人であった。そして、アメリカの女性は、イギリスと違って、結婚しても自分の財産をもっていたし、アメリカ人の夫は仕事以外は妻の決断にまかせていた。
イギリスのアッパー・クラスの人々は、所有するカントリー・ハウスを一般公開した。有料で観光客を迎えた。生活しながら、観光客をもてなした。
日本人だったカズオ・イシグロはナイトとなった。このナイトは一代限りで、世襲制ではない。カズオ・イシグロは、ナイトになったので、名前の前に「サー」がつく。ロード・サー・レイディの称号が名前につくのか、名字なのか、結婚後はどうなのかなどによって、その人物が貴族のどの爵位なのか、長男なのか、次男以下なのか、妻なのか、未亡人なのか、または離婚した妻なのかといったことが、ある程度わかる。
アッパー・クラスの人は、大きな屋敷や土地の維持に苦労していて、経済的に困窮している。そして、経済的な理由だけでなく、アッパー・クラスの人は他人(ひと)の目など気にしないので、身なりにもかまわないし、衛生にも無頓着。
イギリスの上流階級の実情、そしてイギリスの庶民がどうみているのかを知ることができました。でも、嫌ですよね、皇室とか貴族(華族)とか...。早く廃止してほしいです。万民が本当に平等の世の中に早くなってほしいです...。でも、その前に経済的な格差のほうを少しでも克服するのが先決でしょうね。
(2022年3月刊。税込2420円)

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