弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年4月18日

がんは裏切る細胞である

人間


(霧山昴)
著者 アシーナ・アクティピス 、 出版 みすず書房

がんについての本です。私たちはがんと共生するしかないようです。
私たちが生きている以上に、がんというプロセスを止めることはできない。
がんとは進化そのもの。進化が形を得た存在、それががん。
この惑星(地球)に多細胞生物(人間もその一つ)が存続する限り、がんが消えてなくなることはない。
私たちががんにかかるのは、体内で生きのびて短時間で増殖する細胞のほうが子孫細胞を多く残せるから。
がん細胞は、悪質なルームメイト集団以外の何物でもない。
私たちは知らず知らずのうちに、がんと賃貸借契約を結んでいる。
がんについて、湿潤性と転移性こそががんを決定づける特徴だ。
本来なら多細胞生物の性質であるはずの細胞間の協力が裏切られる。
細胞は、隣接する細胞のふるまいを監視している。近くのどれかの細胞から「気にくわない」とされたら、自死のプロセスを開始できる。周辺監視システムがあるおかげで、がん細胞予備軍から全身を守っている。
細胞は何かを入れて何かを出すだけの単純な機械ではない。実際は、複雑な情報処理装置だ。
個々の細胞は、近所の細胞や免疫系とも連携し、絶えず情報を共有しながら、がん予備軍の細胞をうまく抑え込んでいる。
細胞は1ミリ秒とも休むことなく、情報を処理し、かつ情報に反応している。
私たち(ヒト)は、がんと共に生まれ、がんと共に生き、がんと共に死ぬ。胎内から墓場まで、がんは私たちの生命の一部だ。
「正常そうな」細胞全体の4分の1あまりに、がんにつながりかねない遺伝子変異が発生している。がんを抑制しようとすると、早期老化のようなコストが生まれる。
私たちががんにかかりやすいのは、成長、組織の維持、傷の治癒、感染症の予防といった機能にがんが結びついているから...。そのほか、生殖能力にもかかわっている。
がんを生じさせるのは、遺伝子の変異だけではない。細胞のふるまいを制御する遺伝子産物のアンバランスにもよる。
私たちは、前がん性の腫瘍と一緒に何十年と暮らし、普通は何の支障もない。つまり、私たちは、がんと共に人生を終えているのだ。
がん細胞は、個別に動くより、クラスターになったほうが、はるかに容易に転移できる。
がんは、私たちの一部であり、予測不能で適応力の高い相手だ。
がんと長期にわたって、戦略的につきあっていく覚悟を決めれば、得るものは大きい。
がんを一掃できるという望みを持つのは、間違っている。要するに、がんは病気というより、「多細胞生物に特有の性質」であるということ。生命は多細胞の形態に移行したときからずっと、つきあってきた。
がんを完全に封じ込めてしまうと、生物は不利益をこうむりかねない。
がんという病気は、ずっと、だましだましであれ、つきあっていくしかないようです。撲滅なんかできないとのご詫宣には大変おどろきました。がんとは共生するしかないとのことです。
(2021年12月刊。税込3520円)

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