弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年4月15日

市民と野党の共闘

社会


(霧山昴)
著者 児玉 勇二 、 梓澤 和幸 、 内山 新吾 、 出版 あけび書房

小選挙区制と低投票率によって選挙結果が相当ゆがめられ、これが日本社会の右傾化を加速させてきた。まったく同感です。
投票率は、今や60%を大きく下回って、55%にも届かない現状にあります。フランスの大統領選で投票率が下がったといっても、まだ70%というのにうらやましくて仕方ありません。
自民党は、絶対得票数は長期低落傾向にありますが、小選挙区制と公明党との提携によって長期政権を維持しています。自民党政権にしてみれば、低投票率が続き、野党が割れている状態が続けばいい。政権で有権者の支持を得る必要はない。つまり、何をしてもいい。アメリカの兵器を爆買いしたって、それで文句を言われて政権の座からひきずりおろされる心配はしなくていい。
なので、多くの国民に政治に「うんざり感」をもってもらい、野党のあいだに楔(くさび)を打ち込めばいい。道理で、連合の芳野会長は、自民党の希望するとおりを日々、実践しているわけです。
そして、メディアは、選挙のときも、まともな政策報道はしない。与党をちょっと批判すると、必ず野党も批判する。どっちもどっち、「野党の追及は迫力を欠いた」、いつも、まったくワンパターンの報道です。焦点をわざとボカシています。
たとえば、ウクライナ避難民を日本を外務大臣が政府専用機に20人だけ同行させて日本が迎えいれましたが、このことを日本のメディアは大きく報道しました。ウクライナの人々が国外の400万人(もっと多いのでしょう)も出ているというのに、日本は「20人」で、岸田政権はなんかやってる感を打ち出すのに成功しているのです。まったくバカバカしい話です。この「20人」が、何万人もの受け入れの先発隊だという位置づけは何もありません。「人道支援」として日本はいったい何をしているのか、問いかけもありません。日本のマスコミは全体として政府広報機関と化しています。
いったい、ヨミウリもアサヒもNHKもウクライナに特派員を派遣・常駐させて、現地の人々の声を日本に届けるべきではありませんか。なぜ、それをしないのでしょうか。
イギリスのジョンソン首相がウクライナのキーウに飛んで、大統領と会った映像が流れましたが、日本の岸田首相はなぜウクライナに飛ばないのでしょうか。
日本のメディアの質の低さを本書は厳しく批判しています。まったく同感です。
日本のマスコミは改革をあおる新自由主義が今なお大好き。維新の会って、公務員を叩き、保健所を減らす一方で、カジノ優先、弱肉強食の政治にひたすら突きすすもうとしているのに、話題性があって、「売れる」というだけで重宝しています。ひどい話です。
日本は、世界でもっとも選挙制度が複雑怪奇だ。これは、国会が小選挙区と比例代表制のミックスであるのに、地方選挙は、大統領選挙の首長選挙と、大選挙区制の組み合わせとなっていることを指しています。それもあって、立憲民主党は、国政選挙では自民党と対立しながら、地方の首長選挙では共闘するという不思議な現象が起きるわけです。
この本の基調は、野党共闘は失敗だったのではなく、大きな成果があげたこと、しかし、ままだ克服すべき課題の大きい、未熟なものだったということです。これまた、同感です。
関西、とりわけ大阪では維新の票は岩盤化していて、67万票前後で、固定化している。都心の高層タワーマンションや郊外の戸建て住宅に住む「勝ち組」意識を抱いた中堅サラリーマン層や自営業上層の人々。彼らは税金の高負担への不満、高い税金を「喰いつぶす」年寄り、病人、貧乏人へ怨嗟や憎悪の感情をもっている。その情念を維新は、かきたてて、社会的分断を意図的につくり出している。「大阪都構想」で維新が敗北したのは投票率が7割近くまで上がったことによる。維新も自民党と同じく、投票率は低いほど良いのです。
7月に予定されている参議院議員選挙に向けて、強固な野党共闘ができて、自公政権を退場に追いつめるのか、いよいよ正念場を迎えています。
ロシアのウクライナへの侵略戦争が1ヶ月以上続いていて、日本も「核武装」しようなどという危険な間違った声が出ているのを、私は本当に心配しています。軍事で対抗しようとしても、日本を守れるものではありません。そんな幻想はきっぱり捨ててほしいものです。
敬愛している内山新吾弁護士(山口県)から贈呈うけました。ありがとうございます。
(2022年4月刊。税込1760円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー