弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年3月23日

江戸の科学者

日本史(江戸)


(霧山昴)
著者 吉田 光邦 、 出版 講談社学術文庫

3歳の孫がオモチャとして遊んでいたソロバンは、コンピューター万能の現代でもしぶとく生き残っています。少なくなりましたが、ソロバン塾も健在です。
ソロバンを発明したのは中国、日本には室町時代末期に入ってきた。読み書きソロバンは江戸時代、塾で教えられていた。
そして、東洋独特の計算機として、算木(さんぎ)がある。長さ5センチ、幅1センチの小さな板。縦に1本置くと1、2本置くと2を表す。6は横に1本、縦に1本と、丁字形に置いて数を表す。十位の数は、逆に横に置いて10を表す。位の上るにつれて、その置き方を変えるので、どんな数でも算木で示すことができる。また、算木を赤と黒に分けて、赤はプラス、黒はマイナスを表すことにした。これは知りませんでした。マイナスも表示できたんですね。
日本で盛んだった和算は、その根本が計算術、実用だった。数式や図形の本質を考えるものではない。和算は芸能に近いものだった。和算家は直感を重視した。帰納法は直感から生まれる。和算家は、すぐれた直感によって、西洋数学に匹敵する公式を発見した。神社や仏寺に算額を奉納したのも、芸術的な感覚からだった。
関孝和によって、和算は、その面目を一新し、大きな飛躍をとげた。
小野蘭山は、幕府の命によって、江戸から東北地方、また近畿・中部地方を旅行してまわった。73歳のときから5回も大旅行した。すごいですね、江戸の人々は、本当によく旅行しています...。
享保19(1734)年に生まれた麻田剛立は、太陽を観測して、黒点が移動すること、それは東から正面、さらに西へと30日で移動することを知り、このことから太陽の自転周期を知った。すごいですね、太陽の黒点をじじっと観測して、ついに太陽の自転周期まで解明するとは...。そして、暦書までつくったのでした。
杉田玄白たちの苦労も大変なものがありました。オランダ語を小さな辞書しかないなかで、自分たちで訳文を考え、つくり出していったのです。訳本が完成したとき、長崎にいたオランダ通訳たちに大きなショックを与えたのでした。それはそうでしょうね。オランダ語を独占・運用しているのは自分たちだけと思っていたでしょうから。これによって、オランダ研究・西洋研究が大きく促進されました。
杉田玄白は「九幸」と号した。九つの幸福をもったとの意味。一は太平の世に生きたこと。平和は大切です。二は天下の中心の江戸で成長したこと。田舎もいいものなのですが...。三は広く人々と交友できたこと。友だちは大切です。四は長寿を保ったこと。五は安定した俸禄を受けていること。六は非常に貧しくはないこと。大金持ちでなくてもいいので、そこそこお金があることは心の安定に欠かせませんね...。七は天下に有名になったこと。八は子孫の多いこと。結婚して子どもがもてて、さらに孫までできたら、もう言うことありませんよね。九は老人となってなお元気なこと。玄白は85歳で死亡しました。
江戸の科学者をあげるとき、平賀源内を抜かすわけにはいきません。残念なことに源内は獄死しています。源内は江戸時代に全国の物産会を6年間に5回も開いた。全国30余国から実に1300余種が収集・展示された。江戸時代って、こんなに交流が密だったんですよね...。源内は、小豆島の古代象マストドンの化石にも注目しています。電気(エレキテル)やアスベストも...。
江戸時代は幕府の鎖国政策によって、世界の流れから取り残された暗黒の時代だったというのは、まったくの誤解でしかないことがよく分かる文庫本です。
(2021年9月刊。税込1265円)

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