弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2022年3月16日
黒人と白人の世界史
フランス
(霧山昴)
著者 オレリア・ミシェル 、 出版 明石書店
フランスは奴隷制と植民地制度を、おそらくもっとも高度に強力に推進した国。
フランス革命のあと、画期的な人権宣言をしたフランスは、別の顔をもっていたのです。
そして、2001年のトビラ法(トビラという国会議員が法務大臣になって制定した法律)は、学校では歴史の学習指導要領に大西洋地域の奴隷や奴隷貿易についての教育を導入するよう義務づけた。
戦前の日本が中国大陸や朝鮮半島から人々を強制的に連行して日本国内の鉱山等で労働させていた事実を学校で教えるよう義務づけたようなものです。佐渡金山で強制連行してきた朝鮮人等を労働させていた事実は、地元の史書にも明記されている史実なのに、自民党政府は躍起となって否定しようとしています。まさしく恥ずべき政府というほかありません。
モンテスキューは、黒人奴隷制に反対する立場から、皮肉をこめて次のように言っている。
「この人たちが人間であると想像するのは、我々にとっては不可能だ。なぜなら、人間だと認めれば、我々自身がキリスト教徒ではないと思い始めるだろうから...」
アメリカ征服の初期には、ヨーロッパ人は自分たちを「キリスト教徒」と定義すれば、現地のインディアンと区別するのに十分だった。ところが、次第に混血児が増えてくると、白い色は支配階級の印になっていった。
非白人は、次のように分類された。ムラートは、白人と黒人の混血。メスティーソは白人とインディアンの混血、カルトロンは黒人の血が4分の1、オクタロンは黒人の血が8分の1。いずれも、社会の上層部に上ることを妨げられた。
奴隷制の極端なまでの暴力は高くつく。それによって引き起こされる反抗や反乱を抑止して労働強制する体制を維持するだけでも、大変な代償だ。表面的には繁栄していても、奴隷制は身体的暴力や法律によって絶えず再構築しなければならない脆弱な制度だった。そのため、奴隷制は非常に利益が上がっていても、その擁護者でさえ急速に廃止を受け入れざるをえなかった。
紀元後1世紀のローマ帝国には、200万人の奴隷がいた。同じ時期の漢王期にも100万人の奴隷がいた。日本でも少なくとも10世紀までは奴隷がいたとされている。これって、平安時代の日本に奴隷がいたということですよね。「安寿と厨子王」も奴隷の話だったということでしたっけ...。
インドでは、1860年にイギリスが禁止するまで900万から1000万人の奴隷がいた。
2016年ですら、本質的に奴隷とみられる人が世界中に2500万から4600万人いる。
7世紀から19世紀にかけて、1700万人のアフリカ人がアフリカ東部ルートで売られた。さらに1200万人が大西洋地域に売られ、900万人が北アフリカに送られた。
奴隷は、生産はするが、再生産のサイクルには貢献できないので、親族とみなされない。これは人間性からの永久追放に相当する。
奴隷は子どもを持ったとしても、親の資格は与えられない。子孫を持つこともできない。奴隷である父親や母親は、自由な子に対して親権を行使できない。
奴隷は象徴的かつ決定的に排除されると同時に、慣れ親しんだ人、召使であり、犬のように割り当てられた立場にとどまる。
奴隷制をつくり出すのは戦争だ。また、奴隷売買は商業経済の一部でありうる。
奴隷船には500人から600人が積み込まれた。2ヶ月半の航海で18%から11%の死亡率。反抗や逃亡の試みは日常茶飯事。乗組員の6倍の奴隷がいた。あまり残酷に扱って商品を死なせてはいけないし、反抗する力をもたせてもいけなかった。水と食事は最小限に抑え、病気を避ける必要があった。
目的の港に到着すると、男女各1人、子ども1人で4人か5人でひとまとまりとして売られる。これは実際の家族関係でないことが多い。
アメリカ独立宣言の起草者の一人であるトマス・ジェファーソンは、奴隷制を肯定し、奴隷を厳罰化する法律をつくった。
「博物学の観点から、赤い人種と黒い人種は、肉体と精神のあらゆる完成度において白人に劣っている」とジェファーソンは書いた。
人種とは、あいまいな概念で、ほとんど無意識であるため、奴隷制よりもさらにいっそう暴力を生み、本来は筋道をつけるべき社会関係を常に攪乱する。つまり、人種は奴隷制のあとを引き継ぐとしても、奴隷制に相当するものではない。
ニグロの家族をつくること、自由労働者を再生産し定住させることは、解決不能な矛盾だ。住民の定着・増加と奴隷労働は両立しない。
奴隷制は人種差別から生まれたのではない。正確に言えば、人種差別が奴隷制に由来するものだった。
奴隷と人種との関係をふくめて、いろいろ考えさせられる本でした(難解なところも多々ありましたが...)。
(2021年12月刊。税込2970円)
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