弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年2月27日

世界を唸らせる切削、研削

社会


(霧山昴)
著者 浅井 要一 、 出版 幻冬舎

滋賀県長浜市にある精密加工の会社(トップ精工)の社長による本です。
タングステンやモリブデン、セラミックス、ガラスなどの難削材の精密機械加工の分野に特化し、特殊素材の加工技術を磨き上げている。2001年の設立当時は売上数千万円を突破した。リーマンショックで落ち込んだが、一般的な素材の加工から撤退し、特殊な素材の精密加工の分野だけに焦点をしぼり、2018年の売上高は20億円をこえた。また、特定の顧客に依存するのは危険なので、1社は20%までと、販路の分散を図った。
コールドスプレー装置とは、コーティング材料を固体状態のまま気体に乗せ、超音速で基材に衝突させて被膜をつくる装置。これは、熱による材料の特性変化を抑え、被膜中の酸化を最小限にとどめる効果がある。
トップ精工の強みに、タングステンやモリブデン、セラミックスやガラスといった硬脆(こうぜい)材料(硬くて、もろい素材)の精密加工に特化している点にある。
日本の部品産業が世界的にみて強いのは、加工技術が優れているから。とくに高精度が求められる精密加工の分野において日本は世界一。
特殊な技術を必要としない仕事は標準化され、経済合理性の観点から、生産コストの低い国にシフトしていく。
電子部品には、受動部品と納同部品の二つがある。受動部品とは、エネルギーを蓄積・消費・放出する機能がある部品のこと。抵抗やコンデンサ・コイルなど。
能動部品とは、エネルギーを出力する特徴がある部品のことで、トランジスタやIC、ダイオート、そして半導体など。わずか4年で受動部品のサイズが半分になってしまうといったように、電子部品産業では数年単位で小型化が進んでいる。すると、極小部品を正確につくるための製造装置が不可欠となる。次に、電子の部品を量産するための製造装置や検査装置が求められる。
日本のメーカーは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を開発した。アルミよりも軽く、鉄よりも強い画期的な新素材。航空機関構造材の世界シェアの7割を日本の炭素繊維メーカーが占めている。
タングステンは融点が金属のなかでもっとも高い(3400度)素材。
日本が世界に誇る精密加工は、ミクロン単位の誤差が命とりになる。
過去の経験則や標準化された方法のみに固執するだけでは、解決策は見つけられない。機械加工の常識を取り払い、柔らかい頭で発想することで、解決に至るアイデアを想いつく。なーるほど、そうなんですよね...。
機械で指令できる最小単位の0.1ミクロンとした。0.1ミクロンの切り込みは、10往復してようやく1ミクロンになる。1ミクロンは1000分の1ミリなので、1センチだけ進むのに1万回も往復しなければいけないだろう...。
大丈夫、必ずできる。自信をもって取り組みをすすめる。途中で、「この方法ではダメだと分かると、そのやり方に執着することなく、さっと切り替えて、別の可能性を探る。柔軟な発想で臨機応変に対応できるかも、精密機械加工の成否を左右する。
わずか80人ほどの中小企業がこんなにも考えながら、精密加工の技術を特化させているのですね。驚きました。日本のモノづくり分野はコロナ禍でどこも大変な苦境にあると聞いています。そのなかでこれほどがんばっている会社があり、そこで多くの若者たちががんばっていることを知り、うれしくなりました。
(2019年11月刊。税込1540円)

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