弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年2月22日

プライバシーという権利

社会


(霧山昴)
著者 宮下 紘 、 出版 岩波新書

インターネットが社会の隅々にまで浸透している現代社会におけるプライバシーを守る権利を考えている本です。とても勉強になりました。
FB(フェイスブック)で「いいね」を押した履歴を集めると、その人がどんな人か予測できるといいます。白人か黒人かは95%、性別は93%、ゲイであるか否かは88%の確率で予測できる。独身か既婚者か、喫煙の有無、飲酒の有無、宗教(キリスト教かイスラム教か)も予測できる。また、民主党支持か共和党支持かについても、85%の確率で予測できる。
私もFBは利用しています(見るだけです)が、これではうかつに「いいね」を押せませんね。
ナチスはユダヤ人迫害のとき、IBMからパンチカード読み取り機を購入し、個人情報を収集して分析した。それによって、ユダヤ人の中から誰を最初に資産没収、逮捕・拘禁、そして最終的に駆逐の標的にするかを決めた。
プライバシーの権利の核心にある利益は、憲法13条の個人の尊重の原理に照らした人格的利益と考える。データによる決定からの解放により、情報サイクルの中で人間を中心にすえて、本人自らがネットワーク化された自分を造形する利益、別の言い方では、自らの情報に関する決定の利益こそが現代的プライバシー権の中核をなしている。
日本の最高裁は、これまで一度も自己情報コントロール権を肯認していない。
ベネッセから個人情報が大量に漏洩した件について、ヤフーBBから500円の金券が配布されていたほかに、裁判所は5500円の賠償を命じた。
氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの単純な漏洩の被害者に対する慰謝料の相場は、1人あたり1000円から1万円となっている。1人あたりではたいした金額ではないとしても、企業にとって、被害者が多いと大きな金銭的負担を余儀なくされる。
破産者マップについて、インターネット上で公表するのは違法だけれど、DVDにして販売する行為は適法とされている。この両者の違いは、一体どこにあるのか...。
では、車に搭載しているドライブレコーダーによる常時撮影は、情報自己決定権の侵害にあたるという判決はどう考えてよいか。
自動顔認証カメラが空港に設置されようとしています。その正確性は99%。ところが、2019年には外国からの旅行者は4434万人いたので、44万人あまりの人々が、誤認されることになる。これって、とても怖い話ですよね。
自分のことを自分以上に第三者が知っているなんて、まさしく不気味そのものです。いやですよね...。現代社会に生きるうえで考えるべき視点の一つだと思いました。
(2021年2月刊。税込880円)

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