弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年2月 9日

「核の時代」と戦争を終わらせるために

社会


(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 学習の友社

日本反核法律家協会の会長として活躍中の著者が核廃絶の信念を披瀝するとともに、その現実性と必要性を力説しています。著者による半年前の前著より、体裁も内容も、とてもすっきりしていて、読みやすくなっています。
著者は冒頭部分で、34歳のころの、当時4歳の娘さんとの会話を紹介しています。
頭上を自衛隊の飛行機が飛んでいるので、娘さんが「何をしているの?」と尋ねたのに、「人を殺す訓練をしている」と答えた。「どうして原爆ってあるの?」「人を大勢殺せるようにさ」、「どうして人を殺すの?」「人を殺してでもお金もうけをしたい人がいるのさ」「じゃあ、お金なくしてしまえばいいじゃない」。
子どもの直観って驚くほど鋭いものがありますよね。この問答にもハッとさせられます。
著者が核兵器に反対するようになったのは、まだ幼いときに母親から「原爆で、人は蒸発して、石段に影として残った」と聞かされたからだとのこと。ところが、この旧住友銀行広島支店の入り口にあった石段の「人影の石」について、人間が蒸発するとは思えないと指摘されているといいます。知りませんでした。人が蒸発するような温度であれば、おそらく石の階段も蒸発するか、熔融するはずだというのです。なので、熱線のあたった部分と、そこに腰かけていた人間にさえぎられて熱線があたらなかった部分の違いだろうとのこと。なるほど、「蒸発」ではなく、そこにいた人は、吹き飛ばされてしまっただけなのかもしれないのですね。
そこで、著者は、どちらでもいい、その人の日常が、突然、理不尽にも奪われてしまった事実こそが問題だとしています。まったく同感です。
2019年4月、アメリカの連邦議会(下院)で、核兵器禁止条約を受け入れるよう求める決議案が提案された。その提案者であるジム・マクバガン議員は、次のように提案理由を述べた。
「核戦争は人類の生存を脅かす。結局、問われているのは、人類が核兵器を終わらせるのか、核兵器が人類を終わらせるのかということだ」
そうなんですよね。地球温暖化など地球環境の破壊が進行しているのも重大な問題ですが、緩慢なかたちで人類が生存できなくなるのか、一瞬にして人類が滅亡するのか、どちらも目をそむけるわけにはいかない重大な課題だと私は考えています。
それにしても、アメリカというのは本当に不思議な国ですよね。トランプみたいな、とんでもない人間が大統領になったりしますが、民主主義を守ろうという力もそれなりに強く、たくましいのですね...。
日本の青年・学生のなかに、「戦争はなぜ悪いのですか?」と真面目な顔で質問してくる人がいることが紹介されています。コロナ禍前から学生は忙しいし、政治に関心がなく、その多くはなぜか現状をなんとなく肯定し、同調圧力もあって自民党を支持するのが多数だということのようです。若い人の投票率は3割程度で、半分以上は投票所に行っていないという調査結果が紹介されています。本当に残念です。この本のなかで、昭和女子大の学生たちの取り組みが紹介されています。平和問題についての青年・学生の関わりを高めるにはどうしたらよいか、みんなで知恵を出しあうべきでしょうね。
コロナ危機の陰で核軍拡がすすんでいることに、著者は警鐘を乱打しています。これまた、まったく同感です。日本はコロナ対策ではアベノマスクや「GoToトラベル」にみられるように無用なことに大金をつぎこみながら、肝心のPCR検査やワクチン確保は後手にまわるとともに、保健所の廃止・統合をすすめ、医療機関も減らしつつあります。その一方で、「中国の脅威」をあおりたてて軍事予算はついに5兆円をこえて6兆円に迫りつつあります。オスプレイが日本本土をぶんぶんうるさく飛びまわり始め、コロナ感染の有力発生源であることが明らかなアメリカ軍基地について、日本政府は出入り禁止を申し入れることすらしません(できません)でした。
そして、今や、「敵基地攻撃」を国会で公然と口にしています。現実に攻撃されなくても(なので、正当防衛ではありません)、攻撃の意図があると認定したら(国会ではなく政府が勝手に)、敵国の領土にある施設を攻撃し、破壊する(安倍元首相は「殲滅(せんめつ)」という恐ろしい軍事用語を使っています)というのです。これはまるで先制攻撃、つまり戦争を仕掛けるのとまったく同じで、恐ろしいことです。狭い日本列島に住む私たち日本人は、どこにも逃げ場なんてありません。戦争になったらいけないのです。対岸の火事ではすまされません。
鳩山由紀夫・元首相は、「悪魔のペンタゴン」に敗北したと語っているとのこと。「悪魔のペンタゴン」なんて聞いたことはありませんが、政界・財界・官界の三角形にアメリカ軍とマスコミを加えたものです。ともかく、今の日本のマスコミはNHKをはじめ政権擁護が露骨すぎます。また、「ディープ・ステート」というコトバも出てきます。軍産複合体のことです。アメリカでは強大な力をもっているようですが、日本でも、そうなのでしょうか。
ともあれ、わずか170頁ほどの小冊子ですが、今回もまた大変勉強になりました。本書が広く読まれることを願っています。
(2022年1月刊。税込1760円)

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