弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年1月29日

輝山

江戸


(霧山昴)
著者 澤田 瞳子 、 出版 徳間書店

石見(いわみ)銀山を舞台とする時代小説です。いやあ、すごいです。読ませます。作家の想像力のすごさを実感します。自称モノカキの私には、とてもこれほどの筆力はありません。情景描写もすごいし、ストーリー展開が思わず息を呑むほど見事なのです。そして、いくつもの伏線が終点に結びついていき、ついにクライマックスに達します。
私は、この本を2日間かけて読み終えました。まさしく至福のひとときです。
ただ、読み終わって、あれ、待てよ、どこかで、この本と同じようなストーリー展開を読んだ気がするなと思い至りました。でも、それがどんな本だったのか、具体的には思い出せません。
ともかく、鉱山にしろ農業にしろ、江戸時代の人々が大変な苦労をして、それをやりとげていたのは歴史的な事実です。石見銀山でも同じように苦労しながら働いていた人々、そして、それを管理する人々がいます。それぞれ、思惑はいろいろあって、お互いにぶつかりあいます。
それを生のデータとして提供するのではなく、細かい鉱山の採掘状況を描写しつつ話を展開させ、読み手の心を惹きつけていく。さすがです。
銀山で働く労働者は、じん肺でヨロケにかかって若くして、40代に死に至ります。この本では「気絶(きだえ)」と呼んでいます。でも、それぞれ親や子をかかえているから、先が短いのを知りながらも耐えて働くのです。
そして、それを扱う商人がいて、そのうえに藩がいる。そんな構造のなかで、人々はもがき、また、いくらかは楽しんでもいるのです。
「破落戸」とは、「ならずもの」と読ませるのですね。知りませんでした...。
(2021年9月刊。税込1980円)

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