弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年1月27日

ゴミ収集とまちづくり

社会


(霧山昴)
著者 藤井 誠一郎 、 出版 朝日新聞出版

大学教授が清掃車に乗ってゴミ収集の現場を体験し、現場でつかんだ問題点を具体的に指摘している本です。学者が、研究を深めるために自分も清掃車に乗って働いてみるなんて、とても想像できませんが、すばらしいことです。
朝7時40分に始業時間の20分前に庁舎に入る。そして1時間の昼休みには、10分か15分ほど仮眠する。これで午後からの体の動きが良くなる。午後3時25分になると、入浴・洗身が始まる。染みついた臭いを落とすため、念入りにボディソープで洗身する。作業着を洗濯し、乾燥機にかける。退庁時間は午後4時25分。
清掃作業は危険をともなうので、安全教育が徹底される。
ゴミ収集作業は単純肉体労働のイメージだが、実際には、現場で、いかに効率良く完遂させるか、頭脳労働の側面もある。
過度な人員削減は、清掃職員に過剰な負担を強いて、モラルを低下させる。
清掃現場の人員削減のため新規採用をしないことは清掃職員のモチベーションの低下をもたらした。新人と接する年長者は、新人を教育するときに自らも学び成長していく。ところが、何年も新人が入ってこないと、そんな機会がなくなり、惰性で仕事をしがちになる。
家庭から排出させるゴミのなかには、コロナに感染した人のものがあるかもしれず、清掃員は清掃車に積み込み作業のなかで感染する危険性がある。清掃事務所でクラスターが発生して閉鎖を余儀なくされると、たちまちゴミ収集が破綻してしまう。
ゴミ量が増加する背景には、大量生産・大量消費・大量廃棄という社会経済システムが存在する。多くの企業は依然として廃棄物の分別や収集までを視野に入れず、これまでどおりの生産活動を続けている。
コロナ禍のもとで、ゴミ収集という日常生活に必要不可欠な職場で働いている労働者に被害を及ぼさないようにしてほしいものです。
(2021年8月刊。税込1650円)

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