弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年1月22日

駆ける

日本史(戦国)


(霧山昴)
著者 稲田 幸久 、 出版 角川春樹事務所

これが新人作家のデビュー作とは...、とても信じられません。ぐいぐい読ませます。
少年騎馬遊撃隊というのがサブタイトルです。舞台は戦国時代。毛利軍と尼子軍との合戦(かっせん)が見事に活写されています。
少年騎馬遊撃隊というから、全員が少年から成るかというと、そうでもありません。馬を扱う能力に長(た)けている少年が毛利軍に引きとられ、そのなかで活躍し、騎馬隊が活躍し、ついに尼子軍を背後の山中から駆け降りて攻撃して打ち倒すというストーリーなのです(すみません、ネタバレでした...)。
毛利軍の大将は毛利輝元。そして、前線では吉川(きっかわ)元春と元長が戦う。そして、尼子軍には山中幸盛と横道政光。山中幸盛とは、かの有名な山中鹿之助のことです。
私は大学受験するとき、机に山中鹿之助の言葉を書き出して、自分への励みにしていました。「願わくば、我に七難八苦を与えたまえ」という言葉です。ある意味で、山中鹿之助に助けられて今の私があるとさえ思っているほど、感謝しています。
吉川元春の嫡男(ちゃくなん)が吉川元長(23歳)。馬を扱う少年とは小六(ころく)のこと。百姓の子どもで、まだ14歳だ。
永禄9年の月山(がっさん)富田城攻めで、毛利は尼子を降伏させた。出雲は、中国11国を支配した名門尼子家の本拠地。いま、月山富田城には毛利方の兵がたてこもっている。そこを尼子軍が取り囲み、毛利軍を四方八方から攻め入る作戦だ。尼子軍は近くの布部(ふべ)に陣を敷き、毛利軍をおびき寄せて圧勝するつもりでいた。
出雲は尼子の地。三代前の尼子経久の時代から、民と共に出雲を築きあげてきた。
月山富山城に行くためには、まず、布部山を頂上まで登り、尾根伝いに行かねばならない。いわば月山富田城にいる仲間を見殺しにしないために必死だった。
馬と少年の意思疎通、そして戦場での兵士同士、また兵士たちとの約束をたがえるわけにはいかない。その思いがかなうのか...。すごい新人デビュー作でした。
(2021年11月刊。税込1980円)

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