弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年12月 9日

アンゲラ・メルケル

ドイツ


(霧山昴)
著者 マリオン・ヴァン・ランテルゲム 、 出版 東京書籍

2021年9月まで、16年間もドイツの首相だったメルケルのフランス人ジャーナリストによる評伝です。フランスの『ル・モンド』に連載したものが基になっているようです。いかにもフランス人らしい叙述で、小池百合子の評伝とは、まったく違った雰囲気の評伝でした。
メルケルは、2人の女性に支えられていることを初めて知りました。ベアト・バウマンとエーファ・クリスチャンセン。バウマンは「事務局長」であり、クリスチャンセンは、メディア対応、企画と戦略を取り仕切っている。
バウマンの執務室とメリケルのそれとを隔てるのは秘書控室だけ。報道機関と対応するクリスチャンセンは、下の7階に控えている。バウマンはメルケルの演説を起案し、すべてを把握している。
メルケルは、首相官邸に寝泊まりしない。自分の簡素なアパートに毎晩帰る。5階建ての小さな建物の4階に住んでいる。下には2人の警官が見張っているだけ。自宅近くの小さなスーパーにひとりで買い物に出かける。ボディガードは、近くはいない。週末には、赤い屋根の小さな別荘にこもって庭の手入れや料理をしたり、湖で泳いだり、古ぼけたゴルフ(愛車)を運転したりする。
メルケルはカリスマ性がない。しかし、威厳がある。メルケルは声高に訴えなくても、ドイツの重みを感じさせることができる。メリケルは歴代首相になかった落ち着きを身につけている。
メルケルは、コミュニケーション・アドバイザーに頼ろうとはしなかった。メルケルは大見得や気の利いた言い回しは使わない。
メルケルは、36歳のとき、ドイツの連邦議会議員に当選した。
ムッティ(お母ちゃん)と呼ばれるメルケルは、世話になった人を巧みに政治的に葬り去った。素知らぬふりをしながらのシリアルキラーだ。
メルケルはコール首相に徹底して尽くし、そして葬った。まだコールに誰も逆らえなかったのに、メルケルは、ドイツの象徴ともいえる巨人コールに引導を渡した。
「コールのとった手法は党に害を与えた。こんな古老に頼らずに政敵に立ち向かうようにならなければならない」と語った。
そして、2000年4月のCDV党首にメルケルが選ばれるとき、対立候補はもはや誰もおらず、圧倒的得票率で党首に就任した。
メルケルは、ぽっと出のように素知らぬ風情で周囲をあざむき続けるのだ。策略家メルケルの得意技は、何食わぬ顔をすることだ。
メルケルは会議を好まず、電話や一対一の打ち合わせを活用する。
自分を批判していると感じた人とメリケルは向きあった。
メルケルは、自分は虚栄心の強い方ではなく、男性の虚栄心を利用するのがうまいと語った。
メルケルは、ドイツの右派と左派の絶妙なバランスで大連立政権を率いた。ドイツの難民受け入れ、ギリシャの負債問題、アメリカやイギリスとの対応そして、ロシアのプーチン大統領。メルケルは、なんとか難局を乗り切っていった。
メルケルが首相として16年間も続いた秘密が理解できる本でした。
(2021年9月刊。税込1980円)

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