弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年12月 7日

靖国神社と聖戦史観

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 内田 雅敏 、 出版 藤田印刷エクセレントブックス

第二次大戦中に、非業・無念の死を強いられた死者たちに対しては、ひたすら追悼あるのみで、決して、彼らに感謝したり、彼らを称(たた)えたりしてはならない。称えた瞬間に死者の政治利用が始まり、死者を産み出した者の責任があいまいにされる。
これが著者の主張の根幹にあり、私もなるほどそうですねと共感します。
第二次大戦中に亡くなった日本人兵士の多くは餓死であり、戦病死でした。誰がそんな状況に前途有為な青年たちを追いやったのか...。もちろん、日本軍のトップであり、天皇と支配層です。
A級戦犯こそ靖國神社にふさわしい。靖國神社がA級戦犯を分祀することは絶対にありえない。なぜなら、分祀した瞬間に、「聖戦」思想を根幹とする靖國神社の歴史観が崩壊し、「靖國神社」でなくなってしまうから...。
中国や韓国からいくら抗議されても靖国神社は平気で無視しますが、アメリカから批判されると直ちに訂正するという、日本政府と同じ卑屈な対応をします。これまた、嫌ですよね...。信念があるようで、ないことがよく分かります。
私も靖国神社には一度行きました。悪名高い遊就館も見学しました。まさしく、「聖戦」のオンパレードで、日本はアジアの人々の解放のために戦ったと言わんばかりの展示ばかりでした。
1978年に靖國神社がA級戦犯を合祀したあと、昭和天皇は靖國神社への参拝はしていないし、明仁平成天皇にいたっては在任中、一度も靖國神社に参拝しなかった。
平成天皇は2015年に南太平洋のペリュリュー島にまで行って戦死した日本平兵士たちを慰霊しました(これで、私もペリュリュー島に関心をもち、マンガ本も読みました)。靖國神社は、ペリュリュー島よりも遠いのか...と、呪詛した人たちがいるそうです。本当に残念です。
この本を読んで、軍人恩給(遺族年金)が、「天皇の軍隊」の階級をそのまま生かしていることを知り、怒りを覚えました。大勢の兵士を戦場で餓死させた「戦犯」である「大将」の年金は年間761万円。それに対して、一般の兵士は、104万円にすぎず、7倍もの差があるというのです。ひどいものです。
著者は前に『靖国参拝の何が問題か』(平凡社新書)も刊行していて、この分野のエキスパートの弁護士です。改めて、大変勉強になりました。今後ますますのご活躍、ご健筆を祈念します。
(2021年10月刊。税込990円)

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