弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年11月30日

戦争と軍隊の政治社会史

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 吉田 裕(編) 、 出版 大月書店

一橋大学で長く軍事史を教えていた吉田裕教授が退職するのを機に、退職記念論文集として発刊された本です。
日本では軍事史研究というと、戦後まもなくは、戦争を正当化するもの、戦争に奉仕する学問と捉えられ、皮膚感覚のレベルで忌避する傾向があった。そして、防衛研究所にあった戦史室は、旧軍エリート将校、それも陸軍中心の集団であり、侵略戦争だったことについての根本的な反省が欠如していた。
日本で、戦争・軍事のリアリティーが隠蔽・忌避されてきた結果、日本の若者たちが戦前の軍服を着てサバイバルゲームに撃ち興じるのを許す風潮を生じた。いやあ、これってまずいですよね。戦争が、いかに残虐なことをするものなのかという本質を語らないと、そうなるのでしょう...。
戦前の日本軍将兵が戦場での体験でショックを受けて精神的な病いにかかって日本内地に送還されたとき、公務起因とはされず、わずかな一時金が支払われるだけで恩給はもらえなかった。さらに、傷痍(しょうい)軍人の世界では、戦傷者は優者であり、戦病者は弱者という雰囲気があった。
日本軍将兵(軍属ふくむ)の死者は230万人とされ、そのうち戦死よりも餓死・栄養失調による死のほうが多かった。そして、陸軍の准士官以上は7割が生還しているのに対して、兵士の生還率は1割8分にすぎなかった。
初年兵は「慰安所」行きは男らしさの証(あかし)とされ、そこに行かないと、「男」であることを疑われた。また、古参兵は初年兵を「女役」つまり「慰安婦代役」をつとめさせられていたところもあった。しかし、なかなか日の目を見ない話として埋もれていた。
「慰安婦」は戦場につきものだった。女性の「性」を軍需品扱いにして平気でいられる日本人の異常さが、日本の豊かな経済成長を遂げさせたとするのなら、それはやがて日本の破滅の原因にもなるだろう...。まったく同感です。
日本人戦犯が敗戦後の新しい中国の収容所で加害者だったことを、いかに認識していったかを検証している論稿があります。
収容直後は、日本人将兵たちは、戦犯と扱われたことに対して、激しい反発や抵抗をしていた。ところが、看守らの対応が予想外に丁寧で、食事や監房の環境がきわめて人道的であったことから、戦犯たちは、次第に安心し、やがて、自ら学習の機会を求めた。
新中国は、いかに日本人戦犯たちが中国人に対して残虐な加害行為をしたことが明らかになっても死刑も無期刑も課すことはなかった。寛大な措置がとられたのです。
日本軍将兵が戦争中、罪なき中国人の少年や農民に対して、「実的刺突」をさせ、虐殺した。また、荷物運搬夫として連行した農民を「地雷よけ」として先頭を歩かせ、死に至らしめた。
日本国内に、このような日本軍の残虐な加害行為が広く知れわたっていない現実があるなかで、日本軍はアジアの解放者だったなどという誤った戦争史観がはびこっているのだと思います。とても残念なことです。その状況を克服するためにも本書が広く読まれることを願います。
(2021年7月刊。税込4950円)

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