弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年11月19日

世界一孤独な日本のオジサン

社会


(霧山昴)
著者 岡本 純子 、 出版 角川新書

日本は高齢者が世界一不幸な国だ。多くの国で、人の幸福度は50代で底を打ち、また上がっていく傾向を示している。ところが、先進国の中で、日本だけ右肩下がりに落ち続け、年をとればとるほど不幸に感じる人が増えていく。物質的に恵まれているはずの日本では、絶望的なほどの「不幸感」で覆いつくされている。
福岡の若者が大勢の人を殺して死刑になろうと思って上京し、電車の中で火をつけ、刃物を振りまわす事件を起こしたと思ったら、69歳の男性がそれを真似て九州新幹線の中で火をつけた事件が起きました。この日本社会に満たされない思いをかかえている中高年が多いことを象徴している事件です。
企業の相談窓口に不当なクレームをつける人(クレーマー)は、自らが品質管理・保証を専門にして、クレーム処理をやってきた中高年が多いとのこと。いやはや、なんということでしょう。
生活保護を受ける人を馬鹿にして切り捨てる発言を繰り返した維新の会の議員がいましたが、維新のコアな支持者は、タワマンに住むような、自らの努力だけで成功したと思っている「高収入・男性・管理職」に多いという分析があります。弱者切り捨てをあおりたてて面白がっている人は、いずれ年齢(とし)をとって身体が動かなくなって自分も弱者になるということを想像することができません。いつまでも、他人(ひと)に頼らず生きていけるという幻想に浸って日々を過ごしているのです。そんな人だって、退職して会社を離れたら、客観的には、たちまちみじめな境遇に陥ってしまうでしょう。仕事を失うと同時に生きがいを失い、そして、頼るべき友人がほとんどいない状況に置かれるのです。それで、クレーマー化し、またネットで炎上に参入して騒ぎたてるしか能がないことになります。哀れです。
日本を代表する証券会社でバリバリやっていた社員が退職して仕事をしなくなると、65%は70歳に届かないうちに亡くなっている。
都会の孤独は実に残酷。閉め切ってしまうと、何の音もしない。今や、高級マンションでの孤独死も少なくないというのが日本の現実。
孤独は、ありとあらゆる病気を引き起こす可能性のあるもっとも危険なリスクファクター。この孤独の犠牲者になりやすいのが、中高年の男性。
孤独のリスクは、①1日にたばこ15本を吸うことに匹敵する、②アルコール依存症であることに匹敵する、③運動をしないことよりも高い、④肥満より2倍も高い。
社会的なつながりを持つ人は、持たない人に比べて、早期死亡リスクが50%低下する。
多くの日本人男性にとって、職場を失うということは、人の根源的要求である、人として認められたい、必要とされたいという承認欲求を満たす場がなくなるとを意味する。
定年を迎えたら、プライドと驕(おご)り、そして肩書きを徹底的に捨てる必要がある。しかし、これはきわめて難しい。
競争心が強く、バリバリと仕事をして、出世していく「オレ様系」オジサンは、他人の話をあまり聞かない。話が長く、対話のない一方的な話をする。
女性は1日平均2万語を話すのに、男性は7000語しか話さない。女性は男性の3倍しゃべっている。
弁護士は定年がありませんので、いつまでも仕事ができるのは大変な長所です。しかし、仕事だけでない趣味をもって、人とのつながりをもつ必要があるわけですが、それには意識的、自覚的な努力が強く求められているということです。これって、言うのは簡単ですが、実行するのはなかなか難しいことですよね...。
(2021年4月刊。税込902円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー