弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年11月13日

文体の舵をとれ

人間


(霧山昴)
著者 アーシュラ・K・ルグウィン 、 出版 フィルムアート社

小説教室というのですから、モノカキを自称する私はすぐに飛びつきました。
なんと、この本の初版は1998年。そして、徹底的に書き直されているそうです。著者は3年前(2018年)に亡くなっています。
ともかく、まずは書いてみる。そして、1日か2日あけて、読み返す。すると、欠点と長所が見えてくる。
この本は、コトバのひびき、リズムを大切にすることを強調しています。なるほど、と思いました。
いい書き手は、いい読み手と同じく、心の耳をもっている。書き手は、ぜひ楽しく書いてほしい。遊ぶのだ。自分の書いた文章のひびきやリズムに耳を澄ませて、おもちゃの笛をもった子どものように戯(たわむ)れてみよう。自作は声に出して読んでみよう。
構文も簡単な短文ばかりで構成された文体は、単調でぶつ切れなので、いらいらさせる。
短文ばかりの文体のときには、会話のとき以上に、考えたうえで文章をつづる。
文体とは、つまりは、すべてリズム。アクションとプロセット(筋書き)しかない物語は、とてもお粗末な代物(しろもの)だ。プロットは、複数の出来事をふつう偶然という鎖でつなげて物語を紡(つむ)いでいく、ただの一手法にすぎない。
いつも似たような人ばかり書いてしまうときには、まったく別種の人物について書いてみるのが良い。ときに飛躍するのも大事だ。
神は細部に宿るというが、悪魔が細部に宿ることもある。詰め込みすぎの描写は、物語を行き詰まらせ、自分の首を絞めてしまう。いったん書いた文章を書き直すとき、出だしが削れるなら、削ったほうがいい。冗漫なところをすっきりさせると、かたちができあがっていく。
本の合評会に著者が参加するときは、沈黙するのが肝心。前もって説明や言い訳するのは、なし。そして、参加者のコメントとメモする。弁解はしない。最後にきちんとお礼を述べるのを忘れないこと。
自称モノカキの私にとっても実践的に大変役立つ本でした。
コロナ禍のせいか、相談も受任も減りましたので、事務所内の待ち時間で読みはじめました。私の読んでいない本、読めそうもない原書などがたくさん出てきています。
(2021年8月刊。税込2200円)

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