弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年10月 5日

権力は腐敗する

社会


(霧山昴)
著者 前川 喜平 、 出版 毎日新聞出版

あの前川さんが、バッサバッサと権力の腐敗を切れ味も良く切り捨てていきます。
切られる相手の一人は、現在の文科省の藤原誠事務次官です。
安倍首相は、まったく独断で、科学的根拠もなく、手続的にみてもおかしい全国一斉休校を要請した。これは要請という名の指令だった。こんな官邸の独断による暴走について、藤原文科省事務次官は即座に応諾した。安倍首相に迎合したわけだ。
一斉休校は、子どもたちから学習の機会を奪い、学校という安全・安心な居場所も奪った。この人災の最大の責任者は安倍首相だが、それに追随した文科大臣、英断を気取った北海道の鈴木知事、東京の小池知事そして大阪の吉村知事の責任も重い。
前川さんは、もちろん文科省の事務次官をつとめた人です。ですから藤原事務次官は、その後輩にあたりますので、人事の流れをよく知る立場にあります。
「藤原君」はもともと事務次官候補ではなかった。別の人物が適任だった。ところが、「藤原君」は和泉洋人首相補佐官と親しい関係にあり、人事を巻き返すことに成功して、ついに事務次官となり、今なお事務次官の椅子にしがみついている。前川さんは嘆いています。そして、「藤原君」が事務次官になれたのは、法務省の黒川氏のときのような勤務・定年延長という裏技を繰り返したからだと解説しています。うひゃあ、恐ろしい...。黒川氏は新聞記者と賭けマージャンが暴露されて「自爆」してしまいましたが、藤原事務次官は今も健在。恐ろしいことです。
若者たちのなかに無関心・無自覚が広がっていることを前川さんは大変心配しています。これは、学校での人権教育や憲法教育が不十分であることにも原因がある。残念ながら、現代日本の若者には体制の現状を容認する傾向が強い。これは学校での政治教育の貧困に大きな原因がある。文科省は、、教師が右と言えば右を向き、左と言えば左を向くような、主体性のない生徒を想定している。
どうせ世の中は変えられない、どうせ世の中は良くならないとあきらめている人が多い。
「学習性無力感」と呼ばれる心理状態だ。しかし、人間は希望をもつことができる。人間は意思によって行動できる。
学習性無力感を克服するためには、小さな一歩を踏み出すことが大切だ。まずは選挙に足を運んでみよう。世の中は変えられる。あきらめてはいけない。
本当に、そうなんですよね。いま、私のすむ町にも夜間中学が復活しようとしています。いいことです。前川さんは、今も、福島市と厚木市で自主夜間中学のボランティア講師をしているとのこと。本当に頭が下がります。
安倍氏は口がうまいが、菅氏は口下手。安倍氏は嘘をつくのがうまい。菅氏は話す内容に一貫性がない。嘘をつきまくった安倍氏。何も言わない菅氏。どちらも国民への説明責任を果たしていない点では共通。
安倍氏は思い入れがないから、こだわりもなく、前言を放棄したり、放置したりできた。だから、前に言ったことについて何もしなくても、何の痛痒も感じない。無責任のきわみ。思い入れがないだけに変わり身が早いという「利点」もあった。菅氏は、自分にこだわりがあるため軌道修正ができない。いったい、この二人は、何のために政治をやっているのか。安倍氏は、名誉を得るための「家業」。菅氏は秋田で財をなした父親をこえる権力者になって「稼業」すること。父親を見返してやることが人生の目的になっていた。
なるほど、ですね。この比較・分析はとても納得できました。
アベ・スガが政権のあとも、自民党政権が続くとしたら、それはもう日本の行末は真っ暗です。そんなことにならないようにみんなが投票所に足を運ぶ必要があります。来たる総選挙で投票率75%を目ざす運動に心から賛同します。
(2021年9月刊。税込1760円)

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