弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年9月29日

琉球警察

社会


(霧山昴)
著者 伊東 潤 、 出版 角川春樹事務所

沖縄の政治家として有名な瀬長亀次郎が主人公のような警察小説です。本のオビに、こう書かれています。
すべてを奪われた戦後の沖縄。それでも、米軍の横暴の前に立ちはだかった一人の男がいた。その名は瀬長亀次郎――。
最近、カメジローの映画が出来ていますが、残念ながら、まだみていません。もちろん、シネコンではみれません。スガ首相を描いた『パンケーキ』の映画と同じく、日本人みな必見の映画だと思うのですが...。
カメジローが那覇市長に当選したあと、アメリカ民政府は徹底して嫌がらせをした。たとえば、銀行預金を口座凍結したため、那覇市は通常の予算が組めなくなった。そして、水道水の供給まで止めた。怒った市民は、すすんで那覇市に税金を治めにやってきて、納税率は97%にまで上がり、公共工事も再開できた。
しかし、警察が次々と罪なき市民を逮捕し、市民が人民党と手を切ると約束すると、不起訴になった。いやはや、アメリカ軍政下とはいえ、あまりに露骨な弾圧ですね。
那覇市議会はアメリカべったりの保守派が多数を占めていて、カメジロー不信任案を24対6で可決した。カメジローは、それに対して議会を解散した。選挙後の市議会では反カメジロー派は過半数は占めたものの、3分の2以上ではなくなった。そこで、アメリカ民政府は過半数でも不信任を可決できるようにして、ついにカメジローは那覇市長の座を追われた。いつの世にも、正義と道理ではなく、アメリカの言いなりになる「保守派」がいるものなんですよね。残念ですが、今の自民党と同じです。3.11があっても原発は推進する、日本学術会議の任命拒否は撤回しない、モリ・カケ事件は再調査しない、質問にまともに答えることはしない。こんな自民党に日本の将来をまかせるわけにはいきません。なのに、なんとなく「野党は頼りない」と思い込まされて、ズルズルと自民党に投票してしまうか、投票所に足を運ばずに棄権してしまう日本人が、なんと多いことでしょう...。本当に残念です。
この本には、カメジローの有名な演説が紹介されています。
それを知るだけでも、この本を読む価値があります。
カメジローは、奇妙としか言えない容貌の持ち主だ。背丈は沖縄人の平均よりやや低いが、顔は骨張っている上に長い。額は広く、髪の毛は後退しはじめている。とくに異様に高い頬骨と長い顎(あご)は、個性的な顔の多い沖縄人のなかでも珍しい。
「この瀬長ひとりが叫べば、50メートル先までは聞こえます。しかし、ここに集まった全員が声をそろえて叫べば、沖縄全島にまで響きわたります。沖縄県民80万が叫んだら、どうでしょう。太平洋の荒波を越えて、ワシントンにまで届きます」
玉城ジェニー知事の前の翁長雄志知事も、カメジローの演説を聞いて心を震わせたことがあったようです。
この本のメイン・ストーリーは、カメジローの率いる人民党にスパイ(作業員)を送り込み、情報を入手し、また人民党を操作しようとする公安警察官の葛藤です。
佐々木譲の『警官の血』には赤軍派の大菩薩峠における大量逮捕にあたって、赤軍派内部に送り込んだスパイとどうやって連絡をとるかという工夫と苦労が詳しく紹介されていました。
アメリカのブラックパンサー党の内部にもFBIのスパイがごろごろいたという本も読んだことがあります。
戦後の奄美、復帰後の沖縄。そして、僕たちの知らない警察がここにあった。これも本のオビにある文章ですが、まったくそのとおりです。
430頁ある小説を早朝から一心不乱に読み、すっかり沖縄モードの気分に浸った一日を過ごしました。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2021年7月刊。税込2090円)

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