弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年9月 7日

レッド・ネック

社会


(霧山昴)
著者 相場 英雄 、 出版 角川春樹事務所

「パンケーキを毒見する」という映画をみました。菅首相が主人公のような映画です。大変面白く最後まで緊張しながらみましたが、残念なことに観客はまばらでした。次の青春モノの映画には若い女性が列をつくっていましたが...。
菅首相の国会答弁は、歴代首相のなかでも言葉の貧困という点で図抜けています。同世代として恥ずかしい限りです。国民に語りかけようとする気持ちをまったく持っていないのです。そんな人が国会議員になり、首相になれる日本という国の底の浅さにおののいてしまいます。菅首相がついに辞任することになりましたが、その記者会見のときも一切の質問を受けつけず、逃げていってしまいました。哀れとしか言いようがありません。
映画のなかで、菅首相が質問に対してまともに答えようとしないのは、政治不信をかきたてるためではないかという解説がありました。政治に不信感をもつ人は投票所に足を運ばない。それが自分の政権を支えている。下手に政治に関心をもってもらいたくないというのです。
さて、そこでこの本です。この本は、選挙戦で、いかにあるべきかという本質論が主要テーマになっています。自民党・菅政権にとって投票率が低ければ低いほど政権の安定度が増すという関係にあることを十二分に自覚して行動しているというわけです。
これから、この本のコトバを私なりに翻訳して紹介します。
自民・公明党に票を投じる有権者は、どんな言葉をかけられようとも支持を変えることはない。立憲民主党や共産党に投票する人も絶対に投票先を変えない。そんな連中を動かそうと思って選挙運動をするのは、時間と労力のムダだ。
なので、選挙プランナーは、無党派層、いつも選挙に棄権している人々にターゲットをしぼり、徹底的に選挙に行くように仕向ければいい。
なーるほど、ですね。ということが理解できても、では、どうやってその層にアプローチするのか、できるのか、が問題となります。
この本では、有名歌手のファンクラブのSNS交信を乗っ取ってしまうという方法が紹介されています。なるほど、若者が好んでいるSNSに喰い込み、候補者を売り込んで、投票所に足を運ばせることができたら、成果は大いに期待できることでしょうね。
アメリカのトランプ大統領の選挙戦も同じような手法が使われたようです。
本当に怖い世の中になりました。スマホでいろいろ検索していると、その人の行動履歴だけでなく、好み、趣味、思想傾向まですっかりさらされてしまうのです。考えるだけで身震いする状況に私たち日本人だけでなく、世界中の人々が置かれているのです。
ちなみに、レッドネックとは、アメリカの中西部や南部にいる低賃金にあえぐ白人労働者のこと。日本が明治維新を迎える前に起きたアメリカの南北戦争のころ、南部は北部のアメリカ人をヤンキーと呼び、北部は南部の人々を炎天下の作業で首筋を赤く日焼けさせていることからレッドネックという侮蔑的な言い方が定着した。
それがなぜ、日本の選挙に関わるかというと、トランプ大統領の選挙運動のなかで、活用(悪用)された手法が日本にも持ち込まれているということです。
ガラケー一本で、スマホを持たない(持ちたくない)私には無縁ですが、スマホで、フェイスブックを利用すると、個人情報が「ダダ漏れ」することになるというのが、この本の前提になっています。本当に恐ろしい世の中です。
この個人情報をフェイスブックがデータブローカーに売却し、ブローカーは細かく分類してネット広告専門店に転売する。なので、個々のエンド・ユーザーにはその人向けの広告がアップされる。
いやはや、なんという怖い世の中でしょうか...。
(2021年5月刊。税込1870円)

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