弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年6月23日

自由法曹団物語

司法


(霧山昴)
著者 自由法曹団 、 出版 日本評論社

日本の裁判官は、もっと実名で批判されるべきだと私は考えています。この本では、たとえば名古屋地裁の内田計一裁判長の呆れた訴訟指揮が厳しく批判されています。裁判官が交代したときに弁論更新をすることになっています。原告側弁護団が、更新弁論の時間をきちんと確保してほしいと要望したところ、名古屋地裁の内田計一裁判長は、...
「今日は、何もできないということになりますか?」
「更新弁論をするなら、今すぐ、5分与えるのでやりなさい」
弁護団が口々に抗議して立ち上がると、内田裁判長は黙って時計を見つめ、「更新、するんですかしないんですか」と言い切った。弁護団が、このような訴訟指揮に抗議すると、「既に法的見解はもっています」と平然と、答えたのでした。予断をいただいていることを告白したのです。
このような、とんでもない裁判官が幅をきかせているのが現実ですが、たまに気骨のある裁判官もいます。名古屋高裁の青山邦夫裁判長、その一審段階の田近年則裁判長です。
自衛隊のバグダッドへの輸送活動は、その実態に照らして憲法9条に違反すると明断しました。すごいことです。大変な勇気がいったと思われます。
福岡でも憲法の意義を劇にして市民にアピールしている「ひまわり一座」がありますが、広島にも「憲法ミュージカル運動」が長く続いて、すっかり定着しています。初めの脚本を書いたのは廣島敦隆弁護士。そして、その後、なんと25年ものあいだミュージカルの脚本を書き続けたのです。それには人権感覚の鋭さと、ユーモアに満ちたものでなくてはいけません。よくぞ書きあげたものです。しかも、13時の開場なのに、12時ころから人が並びはじめ、観客は階段通路も座る人で一杯になってしまうほどでした。
出演するのは、主として広島市内の小学生からお年寄りまで...。毎年、5月の本番までの2ヶ月半のあいだ、連日、「特訓」を受けていたのです。大成功でした。この20年間で、集会に参加した人は1万5000人、そして、この集会(ミュージカル)の出演者とスタッフはのべ2500人。とんでもない力が広島の憲法ミュージカルを支えてきました。
自由法曹団は、この100年間、一貫して市民とともに憲法の平和的条項そして人権規定を実質化させるために取組んできましたが、その取り組みの一つがここで紹介したものです。
(2021年5月刊。税込2530円)

 

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー