弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年6月20日

宝塚歌劇団の経営学

社会


(霧山昴)
著者 森下 信雄 、 出版 東洋経済新報社

タカラヅカの100年も続いている経営戦略が見事に分析されています。なるほど、なーるほどと驚嘆しながら一気に読みすすめました。
タカラヅカは「ベルサイユのばら」(池田理代子のマンガ)で圧倒的な成功をおさめた。1974年に初演され、2006年までに通算1500回も上演され、観客動員数は2014年まで500万人をこえた。タカラヅカ史上最大のヒット作品。
宝塚歌劇の主力商品は、女性が男性を演じる「男役」。娘役の比重はきわめて低い。
タカラヅカは女子だけの空間を女子が応援するという特殊な構造。
タカラヅカ公演のフィナーレとして有名な「大階段」をつかったパレードでは、下級生から順番に登場し、番手どおりに進むと、最後にトップスターが、タカラヅカの象徴である大きな羽根を背負って登場、と展開する。いかなる公演でも、これは変わらないお約束だ。
タカラヅカは、外部からの客演はなく、生徒に限定。作品は、生徒の所属する「組」単位で、構成されるため、他の組への客演も基本的にない。そして、「大抜擢(ばってき)」はない。
宝塚歌劇の舞台に立つための唯一の必要十分条件は、宝塚音楽学校を卒業したこと。「東の東大、西の宝塚」と称されるほどの難関校。大半が「予備校」出身であっても、2年間、この学校での集団生活でみっちり世界観が埋め込まれる。
タカラヅカのスターたちは、現役のときはSNSが禁止される。「虚構」であるはずの「男役」が、「俗世にまみれている」かのような情報をSNSで発信したら、ファンの「夢」を破壊し、顧客満足度を著しく落とすことにつながりかねない。
「男役」としてファンに認定されるためには、「男役10年」と言われるように、長期にわたる熟成プロセスが必要となる。タカラヅカは、「虚構」である男役の成長度合いを公演に乗せてファンに提示している。つまり、宝塚ファンにとって、完成品とは、品質のことではなく、プロセス消費の終点、退団の機に現出すればよく、それまでは未完成でもかまわない。女性ファンは母性本能をかきたてられつつ、見守るということで、自らが自主的にリピーター化している。
ファンは、「初日見て、中日(なかび)見て、楽(千秋楽)見て」だ。
いやあ、この解説は見事ですね。なるほどなるほどと、ついつい膝を打ってしまいました。
劇団四季は、ロングラン公演を実施している。しかし、タカラヅカはロングランをしない。5つの組の公演ローテーションを分け隔てなく固定化している。
タカラヅカには販促(はんそく。販売促進)という概念が存在しない。販促しなくても、ファンクラブ等によってチケットが完売する仕組みができあがっている。
タカラヅカ公演は一度もみたことがありません。でも、テレビでちらっと見たことはありますので、イメージはつかめます。そのタカラヅカが100年も続いているヒミツが分析・公開されている本です。それにしてもコロナ禍で、リモートとか無観客とかになったら、果たして生きのびることができるのでしょうか、心配です。「不要不急」のように見えて、実は大変有要・有益なのがショーの世界だと門外漢の私も思います。
(2021年3月刊。税込1760円)

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