弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年5月19日

ブラック霞が関

社会


(霧山昴)
著者 千正 康裕 、 出版 新潮新書

慶応義塾大学法学部を卒業して厚生労働省に入り、18年半ものあいだキャリア官僚(総合職)として働いてきた体験にもとづいた本です。
つい先日、厚労省の官僚たちが送別会で23人も夜中まで銀座の居酒屋で飲食していた事実が暴露され、世間のひんしゅくを買いました。しかも、クラスター発生とは...。開いた口がふさがりません。官僚の厳密なチェックを経て国会に提出された法案に多数の誤字等の誤りが判明したのも強い衝撃を与えました。
いずれも内閣人事局も官庁全体の人事を手中にして統制をきかせているはずなのに、いかにもタガがゆるんでしまっている状況です。いったい、官僚たちのホコリはどこに行ってしまったのでしょうか...。かつて、ほんのちょっぴりだけ官僚志向だったこともある私としては、情けないというか、腹立たしい思いに駆られます。
厚労省時代、著者は週の半分は終電過ぎまで働いていて、深夜のタクシーで帰宅していた。残業時間は、月に150時間から、国会審議のときには300時間...。信じられません。霞が関ではサービス残業が横行していて、本当の労働時間は公表できない。これまた、異常です。
幹部公務員は、土日にも国会議員からケータイに電話がかかってくるので、気の休まる時間がない。上から下まで余裕がなくなっている。
パワハラするような職員(公務員)には、仕事ができる人が多い。そして、パワハラする人に限って、先輩には丁寧だったりするので、上からは見えてこない。
最近の若手女性職員は、自分のライフデザインと合わないことを理由として離職するケースが多い。職員全体の働き方が変わらないかぎり、女性活躍など、実現できるわけがない。
公務員の定年を延長すると、現実には若手・中堅にしわ寄せが来て、いま以上に疲弊し、離職者が増加するだろう。それは、鉱務崩壊を招く。
うむむ、そういう視点をもたないといけないのですね...。
キャリア官僚の1割は体調を崩して休んだ経験がある。いやはや、これはひどい職場です。いつまでも、そんな職場であっていいわけがありません。
キャリア官僚の志願者はどんどん減っている。志願者は1998年度に5万5千人、2020年度は1万7千人弱。この20年間に3分の1になってしまった。これはこれは...。
キャリア官僚がやりがいのある仕事だと学生に見えなくなったことに原因がある。
それはそうでしょうよ。国会で平然と苦しいウソの答弁をさせられる。そのうえ、残業ばっかりで、給料は高くない。こんな仕事を誰が希望しますか...。
私は、官僚を全否定するつもりはまったくありません。そうではなくて、内閣人事局で人事を一元管理して、シロをクロに、クロをシロに言い換えさせられ、上にゴマをする人だけが出世するようなキャリアシステムをすぐにやめて、官僚は国民に対してのみ責任をもつという、本来の姿に戻るべきだと言いたいのです。
(2021年1月刊。税込858円)

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