弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年5月16日

グレート・ギャッビーを追え

アメリカ


(霧山昴)
著者 ジョン・グリシャム 、 出版 中央公論新社

グリシャムの文芸ミステリーというので、読みはじめました。やはり、さすがですね、途中で読み止めるわけにはいかなくなります。でもでも、心を鬼にして、本を読むのをやめ、重い心をひきずりながらも準備書面づくりを始めました。なんといっても生活していかなければなりません。今の生活を守るためには、なんてったってお金を稼がないといけないのです。
グリシャムの今度の本には弁護士はちらっとしか出てきませんし、法廷場面も、ほんのわずかだけ。主要な舞台は書店。新刊本だけでなく、高価な、それも超高価な初版本を扱う珍しい書店です。
アメリカでは書店で作家によるサインセールをするとき、一人でなく複数の作家が並んでするという。ということは、どちらが読者に人気があるのか、一見して分かることになる。
一方は長蛇の列で、もう一方は誰も並んでいないなんて、泣けてきますよね。映画『帰ってきた寅さん』でも、後藤久美子がサインセールしてましたっけね...。
それにしても、初版本を集める人がいて、それが高額で売り買いされる現象というのが私にはまったく理解できません。本は本でしかなく、初版本なので価値があるなんて、思いもよりません。私なら、作者が次々に加筆・修正していったとしたら、最後のものを読みたいです。そして、自分がそうしたら、最後のものこそ読んでほしいです。
主人公は売れない女性作家です。そして、その周囲に作家群がひしめています。その大半が、あまり売れていない作家たちです。インスピレーションが枯渇してしまった作家たちは、もはやどうにもならないようです。私もつくづく、兼業モノカキで良かったと思います。だって、どうやって、あんなにインスピレーションが次々に沸いてくるのでしょうか、不思議でなりません。
ミステリーなので、ネタバラシはしませんが、最後のドンデン返しがすごいです。なるほど、そういうことだったのか...という思いと、ええっ、そ、そんなことあるの...、という複雑な思いに駆られました。いつもノーベル文学賞候補にあがる村上春樹が訳しています。
「グリシャムのことは、もうだいたい分かった、とあなたが思ったそのとき、彼はあなたを驚かせる」
このキャッチフレーズは、あたっています。
(2020年10月刊。税込1980円)

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