弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2021年5月14日
「弁護士の平成」(会報30号)
司法
(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会
今回は福岡県弁護士会の充実した研修制度の特色と課題について、その一部を紹介します。ぜひ、会報30号の本文を読んでください。
まずは、新人ゼミです。これは、2010(平成22)年から、「新規登録会員が増加し、各会員間の繋がりが希薄になっている状況において、少人数でのゼミを行うことにより縦と横の繋がりを作り、新人弁護士の孤立化を防ぐ」という趣旨で、弁護士1年目の会員を対象として実施しているものです。
愛知県弁護士会が新規登録弁護士に対するチューター制度を導入し、経験弁護士が新規登録弁護士に対して、ゼミ形式によって弁護士の心構えや事件処理の基本等を教授する勉強会を行っているのを知り、当会も同様のものとして導入しました。
新規登録弁護士の登録数の増加を背景に、新規登録弁護士の就職難が問題化し、いわゆる即独弁護士やノキ弁と呼ばれる、経験弁護士から指導を受けることが困難となった新規登録弁護士が生じていたことから、弁護士会として新規登録弁護士に対する指導を強化するのが目的です。
つまり、新人ゼミの大きな目的は、新人弁護士に対してゼミを実施することで講師の先輩弁護士や同期との人間関係の構築にありますから、新人ゼミ実施後には講師を含めた懇親会という名の飲み会が毎回実施されています(コロナ禍によって変化あり)。このようにして、経験弁護士と新規登録弁護士との「縦のつながり」、あるいは新規登録弁護士同士の「横のつながり」を構築するための契機とする意味合いで行われているわけです。
新人ゼミは、毎年4月から12月まで概ね毎月1回(60分程度)の頻度で開催する義務研修です。新人ゼミの回数は年間9回が予定され、そのうち6回以上出席しなければ、義務研修である新人ゼミを履行したとは認められません。欠席回数が2回以上になった新人会員に対しては研修委員長名義で注意文書を出します。2010(平成22)年から新人ゼミを実施していて、ほとんどの新人会員が新人ゼミに毎回出席し、新人ゼミの出席率はきわめて高く(コロナ禍の前まで)、新人会員にも大変好評です。
当会では高度専門分野研修も実施しています。研修委員会で直接担当している研修だけでなく、消費者委員会、刑事弁護委員会、倒産委員会、高齢者委員会、子どもの権利委員会等の各委員会が講演などを通じて専門的な研修を実施していますが、交通事故委員会においては、「交通事故賠償法ゼミ」という少人数のゼミを実施し、若手会員への交通事故分野の積極的な研修が実施されています。また、労働ゼミもあります。
そこで、課題となるのは、専門分野登録弁護士制度です。これは、弁護士に相談したくても、どの弁護士に依頼すれば良いのか分からない人々が適任の弁護士を容易に探せるようにするために、一定の専門分野(当初はパイロット分野として①離婚・親権、②相続・遺言、③交通事故、④医療過誤、⑤労働事件の5分野)について、専門分野登録弁護士としての登録を認める制度です。この制度は、登録要件として一定の実務経験があることと一定時間の専門分野研修の受講を要件とします。
日本においては、弁護士を利用する国民の意見として、個々の弁護士がどのような分野を専門としているかなど、弁護士の専門分野に関する情報があまりに少なく、専門分野の弁護士へのアクセスがしにくいという不満があります。
そこで、日弁連の弁護士業務改革委員会は、2011(平成23)年10月に専門分野登録制度の推進をすべく提言したのですが、日弁連理事会で「時期尚早」の結論となり、現時点において、日弁連自体で「専門」性を付与する制度は当面できない状況です。
弁護士会は2000(平成12)年に広告を自由化しましたが、「○○専門弁護士」と専門性を表示する広告は誤った広告の懸念があるから望ましくないと日弁連は広告ガイドラインで定めているため、専門性の広告表示は事実上禁じられています。しかし、その結果、弁護士についての情報が不十分で、弁護士に対するアクセス障害が生じているという利用者からの不満の声は無視できません。
そこで、大阪弁護士会は、「分野別登録弁護士制度」として、離婚・相続・交通事故・労働の4つをパイロット分野として指定し、2019(平成31)年4月から施行しています。ただ、この制度に登録している弁護士は比較的少なく、社会においてもこの制度の周知徹底がなされているとは言い難い状況です。
今後、弁護士人口もますます増加するとともに、弁護士における業務も医師などと同様に専門化が進んでいくでしょう。たとえば、LACの普及・拡大とともに、弁護士会における専門登録弁護士制度やそれに類する分野別登録制度などの制度の導入を検討せざるをえない日がそう遠くない日にやってくると考えられます。
最後に、研修制度のIT化があります。すでにライブ研修の充実はすすんでいます。日弁連では、2003(平成15)年から、特別研修として、最新の法改正や弁護士実務に関するものを中心に年間500講座程度の研修会を実施しています。特別研修は、東京の主会場において実施する研修の模様を、通信衛星を利用したライブ中継により全国の弁護士会と弁護士会支部に配信しています。これにより、全国の会員の研修受講機会が飛躍的に向上しました。また、インターネットに繋がるパソコンがあれば、いつでも、どこでも研修の受講ができるサービスとして、日弁連は2007(平成19)年からeラーニング研修を導入しています。