弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2021年5月 7日
「弁護士の平成」(会報第30号)
司法
(霧山昴)
著者 会報編集室 、 出版 福岡県弁護士会
法曹養成制度
法曹養成制度については、この分野に一貫して関与してきた牟田哲朗弁護士が改革の歩みと今後の課題を紹介しています。
法科大学院は失敗だった、失敗したと簡単に決めつけてすむ問題ではありません。新しく「法曹コース」が始まるとのことですので、次世代の法曹をどのように養成していくのか、現状をきちんと認識したうえで大いに議論したいものです。あわせて、予備試験というバイパスのあり方についても再考すべきではないでしょうか・・・。
法科大学院
「2004(平成16)年4月に68校、翌年に6校の合計74校の法科大学院が24都道府県に開校した。2004(平成16)年の入学者数合計は5767人(定員5590人)であり、そのうち、未修者が3417人(59.3%)、非法学部卒業者が1988人(34.5%)、社会人が2792人(48.8%)で、医師や公認会計士等の有資格者も入学していた。
福岡では九州大学、福岡大学、西南学院大学、久留米大学の4校、九弁連管内では熊本大学、鹿児島大学、琉球大学の3校が開校し、2004(平成16)年の7校の総定員は330人(福岡240人)、入学者数は314人(福岡219人)であった」(112頁)
新司法試験の合格者
「2006(平成18)年から新司法試験が始まった。初年度は、既修者のみ2091人が受験して合格者1009人(合格率48.25%)、翌2007(平成19)年は未修者も受験して4607人が受験し、合格者1851人(合格率40.18%)であった。
2008(平成20)年から合格者は2000人台になった。・・・・2010年からの司法試験合格者3000人は見送られ、2014(平成26)年からは1800人台、2016(平成28)年からは1500人台に減少され、また、2012(平成24)年からは予備試験合格者も司法試験受験をするようになったので、法科大学院終了者の司法試験合格率は2009(平成21)年から20%台になった。
そのためか、法科大学院への入学志望者数も4万人台から1万人台になり、入学者も2006(平成18)年の最大5784人が2011(平成23)年には3620人に減少した。他方、予備試験受験者は、2011年の6477人が2014年からは1万人を超え、予備試験合格者の司法試験合格者も2012(平成22)年の58人が2014年には163人、2016年には235人と増えていき、2018(平成30)年には336人、2019(平成31)年には315人になった」(112頁)
合格率
「2005(平成17)年から2014(平成26)年度までの直近10年間の修了者は3万8771人、合格者は1万9745人なので、この10年間の修了者の累積合格率は50.9%。また、直近の2014年修了者の累積合格率は、57.4%。そのうち、既修者は、70.0%であるが、未修者
41.1%である。
したがって、司法試験の合格率に関しては、既修者は審議会意見書が基本点とした約7~8割を実現しているので目標達成である」(114頁)
「予備試験が、法科大学院を中核とする『プロセス』による法曹養成のバイパスとなったため、司法試験予備校は盛況である。予備試験合格者の司法試験合格率が80%前後であるのに対し、予備試験自体の合格率は4%前後と抑制されている」(114頁)
新しい「法曹コース」
「2020(令和2)年から『法曹コース』を開始し、2023(令和5)年から『法科大学院在学中受験』を実施することとした。
これは、法曹資格を得るには、現状では、大学4年、法科大学院既修2年、司法修習1年で、最短でも7年8カ月を要するので、これを6年に短縮して時間的・経済的負担を軽減して、法曹志望者を増やし、予備試験志向者を法科大学院に入学させようとするものである。
『法曹コース』は、法学部を設置する大学が法科大学院と連携して、法科大学院既修者コースと一貫的に接続する教育課程『法曹コース』を編成し、学部3年終了時に早期卒業して法科大学院既修者コースに入学する『3+2』の精度である」(114頁)
ロースクール生と九弁連
「九弁連管内弁護士会に登録した新60~62期生274人中の100人(36.4%)が管内法科大学院修了生であり、同100人は弁護士登録した管内法科大学院修了生127人の78.7%である。・・・・2015(平成27)年から久留米、鹿児島、熊本、西南学院大学法科大学院が、順次、募集停止になった」(118頁)
弁護士会の責務
「審議会意見書から20年、法大学院設立から17年経過したが、法科大学院を中核とした『プロセルによる法曹養成』は未だ完成せず、『点のみによる選抜』から脱却できずに多くの課題を抱えている。
しかし、弁護士会・弁護士が、あるべき次世代の弁護士・法曹を養成することは、弁護士・弁護士会の当然の責務である。したがって、福岡県弁護士会においても、法曹養成を法務省や最高裁に一任することなく、日弁連にも一任することなく、地域の弁護士・弁護士会の責務として、地域のために、また地域から全国に広がる有意な法曹を養成していく道を見付けていく必要があり、そのことが法曹の多様性の拡大につながると考える」(120頁)