弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年5月 4日

高瀬庄左衛門御留書

江戸


(霧山昴)
著者 砂原 浩太朗、 出版 講談社

いやあ読ませる時代小説です。久々にいい時代小説を読んだという余韻に浸っていると立川談四楼が本のオビに書いていますが、まったく同感です。
司法修習生のときには山本周五郎を読みふけりました。弁護士になってからは藤沢周平です。そして、最近では葉室麟でした。
ちなみに、「士農工商」という言葉が学校の教科書から消えていることを、つい先日、知りました。武士の下に農民、工業従事者そして商人という階層があると教えられてきましたが、武士が支配階級であることは間違いないとしても、農・工・商には上下の格差はないというのです。なるほど、なるほど、です。もともと、この言葉は中国に起源があり、そこでは、フラットな「たくさんの人々」という意味で、使われているのであって、階層間の格差の意味はないというものだというのです。
しかも、士については、商売人が成り上がることもあったし、できたことが、いくつもの実例で示されています。そして、士をやめて商を始めた人もいたわけです。
時代小説ですから、当然のように班内部の抗争を背景としています。ただ、小さな藩だからなのか、それほどの極悪人は登場しません。
主人公は郡方(こおりがた)づとめの藩士。妻は病死した。一人息子は、父親の職業を引き継ぐのだが、あまりうれしそうでもない。郡方は領内の村々をまわって歩く。
野山を歩き風に吹かれると、おのれのなかに溜まった澱(おり)がかき消える。どろどろとしたものが、空や地に流れて、溶けていく...。この心地良さは他に代えがたいものがある...。
登場人物が、実は複雑にからみあっていて、それぞれの役割を果たしながら、謎が解明されていく趣向はたいしたものです。今後ますますの活躍を祈念しています。
(2021年3月刊。税込1870円)

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