弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年3月28日

漫画、秩父困民党

日本史(明治)


(霧山昴)
著者 つねよし 、 出版 同時代社

とても良くできた歴史マンガです。映画『草の乱』でも紹介された秩父事件がマンガになったのです。
映画では秩父困民党(こんみんとう)の会計長をつとめた井上伝蔵が主役でした。この井上伝蔵は秩父事件のあと逃亡に成功し、なんと北海道に渡って、そこで自然死したのです。
秩父事件とは、明治17年(1884年)11月に、埼玉・群馬・長野3県の民衆数千人が鉄砲などの武器をもち軍隊組織をつくって蜂起した事件です。その目標は、高利貸しへの負債延期、村費の軽減、学校の休校、雑収税の減免など。
この当時、松方(まつかた)デフレで生糸や米などの農産物価格が暴落し、民衆の生活は破滅的な状況に陥っていた。ところが、高利貸は暴利をむさぼり、裁判所は差押を頻発していた。
そこへ、自由民権運動として自由党が進出して、それを人々が受け入れはじめた。しかし、先鋭化する運動に恐れをなした自由党の指導部は解党を決議する。それに納得できない人々は困民党を結成した。
下吉田村(秩父市)の東京神社に数千人が結集し、秩父市の中心部へ武器をもって押し出していった。マンガは、その過程は丁寧に描かれていて、人々の取り組みの様子がよく分かります。ちなみに、江戸時代の百姓一揆では、百姓側も当局側も鉄砲を武器として使用することはなかったそうです(猟銃は村にありましたが...)。それが、明治10年の西南戦争で変わったのだと思います。
当局側は警察だけでなく軍隊まで出動させて鎮圧にあたると、素人集団はたちまち敗退してしまうのでした。
4千人近くが逮捕され、3600人もの人々が罰せられた。総理を名乗った田代栄助(51歳)ほか8人が死刑となった。100人が収監され、うち30人が獄死した。そして、指導者の一人だった落合寅市(35歳)が服役中に憲法発布恩赦で出獄すると、「秩父事件」の復権を訴えはじめて、ようやく秩父事件の積極的な意義が広く知られるようになったのです。
いやあ、本当によくできた歴史マンガです。登場人物の描きわけも見事だと思いました。
(2021年2月刊。税込2530円)

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