弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年3月10日

デジタル化する新興国

社会


(霧山昴)
著者 伊東 亜聖 、 出版 中公新書

相変わらずガラケーですし、1日に1回も使えばいいほうの私ですが、さすがにメール(FB)は読んでいます。といっても、送信するのは秘書の仕事です。とてもあんなに速くは送信できません。ブラインドタッチなんて、考えただけでもうんざりです。私なんかにできるはずがありません。IT化には、うしろからボチボチついていくしかありません。
かつて多くの新興国が、固定電話を経ずに携帯電話に移行したように、いま銀行口座をとびこえてモバイル決済の利用が広がっている。
デジタル経済は巨大な価値を生み出した。2019年の夏時点(コロナ禍より前)で、世界企業価値乱金付上位10社のうち7社がIT企業。GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)にマイクロソフトを加えたアメリカ企業5社と、中国のアリババとテンセントの2社。コロナ禍のなかで、巨大IT企業への資金の集中の傾向はさらに強まっている。
ネットワーク端末は、2003年に5億台だったのが2010年に世界人口より多い125億台となり、2020年には500億台に達すると予測された。世界のインターネットユーザーは、7年間に16.6億人も増えている。このうち9割近い14.7億人はOECD諸国ではない。
中国は2010年に、日本の経済規模をこえて世界第2位の経済大国となった。このことは、世界経済に大きな構造変動をもたらした。
アフリカでは、銀行口座はもたないけれど、ケータイをもつ人々が通信会社の口座内にお金を預ける形で、モバイル・マネーが広がっている。
インドのデジタル化の中心を担うのは、生体人証のIDの発行と決済プラットフォームの構築。2019年12月時点で12億5千万人が登録ずみで、成人の95%がアダールIDを保有している。貧困層への補助金の直接給付の必要性、つまり中抜きされず、確実に補助金を本人に届けるためのものになっている。
アメリカの雇用のうち5割近く(47%)の人が、今後10年から20年のうちに自動化されるリスクがあるというレポートが発表され、注目された。これに対して、自動化されるリスクの高い職種は全体の9%にとどまるという報告もある。
また、技術革新によって、職が自動化される一方、新たにつくり出される職種や部門もある。たとえば、コンテンツをつくり出すクリエイターとしての能力。また、「ラスト・ワンマイル人材」も必要。
プラットフォーム企業は中立公正な立場に立つ存在ではなく、あくまでも市場競争を戦うプレイヤーである。
デジタル化の進展は、選挙活動にも影響している。トランプ陣営は、FBが保有する膨大な個人データを活用して、激戦州におけるトランプへの投票を「説得可能」な有権者1350万人を特定した。そのうえで、個々人の性格や信条に応じた宣伝をして、トランプへの投票を説得しようとした。
このように、過去には考えられなかった精度の個人情報を用いた介入が今では実行可能になっている。いやはや、本当に恐ろしい時代・世の中になってしまいました。だから私は、マイナンバーなんて嫌なのです。私がどんな存在であるのか、私以上に誰かが知っているなんて、想像しただけでも寒気がします。とは言いつつ、ネット社会には適応しないと生きていけないというのも現実です。困ってしまいます。
(2020年10月刊。820円+税)

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