弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年3月 5日

怒り

アメリカ


(霧山昴)
著者 ボブ・ウッドワード 、 出版 日本経済新聞出版

トランプの4年間を総括するというサブ・タイトルのついた本です。著名な記者がトランプ大統領に直接、オンレコで取材したことがベースになっていますので、トランプ前大統領としても全否定できるはずがないものです。
アメリカのすばらしいところは、この本がアメリカで150万部も売れたということです。アベ前首相の回顧録がつくられたとして、それが何万部、何十万部も売れるとは、私にはまったく思えません。
トランプ前大統領の人間性を知れば知るほど、こんないいかげんな男にアメリカ人の多くがコロッと騙され、今なお共和党議員の多くが信奉しているというのが信じられません。
トランプは取材した著者に対して、「すべてのドアの向こうにダイナマイトがある」と答えた。
予想外の爆発で、なんもかもが変わりかねないという意味だ。しかし、そのダイナマイトは、実はトランプ自身だった。
肥大した個性、組織化の失敗、規律の欠如。トランプは自分が選んだ人間や専門家を信頼しない。アメリカの社会制度の多くをひそかに傷つけるが、あるいは傷つけようとした。人々を落ち着かせて、心を癒やす声になるのに失敗した。失敗を認めようとしない、下調べをきちんとしない。他人の意見を念入りに聞かない、計画立案ができない...。
トランプは、長く、自分に異議を唱える人間を傷つけてきた。敵だけでなく、自分の部下やアメリカのために働く人々に対しても同じだった。
トランプはよくしゃべる。ほとんど、ひっきりなしにしゃべる。そのため、かえって国民の多くに信用されなくなった。国民の半分ほどが絶えずトランプに怒りを覚えたが、トランプ本人はそれを楽しんでいるように見える。
トランプ政権では、何事が起きても、おかしくない。何が起きるか、見当もつかない。
トランプ政権のもとで、アメリカの大統領の権力は、いまだかつてなかったほど強まった。トランプは、それをとりわけメディア支配に利用している。
トランプの義理の息子(娘のイバンカ・トランプの夫)ジャレッド・クシュナーの影のような存在も、予測できない要素の一つだ。クシュナーは、きわめて有能だが、意外なほど判断を誤るので、その役割が、きしみを生じさせている。
クシュナーは、ほとんど通常の手順を介さずに大統領の業務に半端に手出しした。ジョン・ケリー首席補佐官は苦慮し、その職務遂行の妨げになった。
クシュナーは、ハーバード大学を卒業していて、知力が高く、できぱきとして、自信に満ち、しかも傲慢だった。トランプは、このクシュナー外交対策のなかでもっとも重要かつ機密の部分を担当させた。しかし、それはうまくいかなかったし、うまくいくはずもなかった。いくら大学で成績が良かったとしてもクシュナーの思いつき程度で世の中が変わるはずもありません。
トランプには、自分なりに信じている事実がある。どいつもこいつも馬鹿だし、どの国もアメリカを騙して、ぼったくっている。この固定観念はあまりも強かった。アメリカはずっと利用されてきた。アメリカは、みんなが金を盗もうとする貯金箱だ。
いやはや、トランプの間違った思い込みは恐ろしすぎますよね...。
国防長官になったマティスは、トランプについて、本を読まないから、できないと見切ったようです。
書物や資料を読む。人の話を聞く、評論する。複数の方策を比較考量して政策を決定する。そんなことがトランプにはできない、できなかった。すぐに変わる、気まぐれなツィートによる意思決定のため、これまでのすべての戦利が沈没しつつある。マティスは、こう考えた。
トランプに任命された国防長官だったマティスは、辞めた理由を著者にこう語った。
愚かさを通りこして、重罪なみの愚行だと思ったことをやれと指示されたので、辞めた。それは国際社会におけるアメリカの地位を戦略的に危うくするようなことだった。
国務長官のティラーソンを解任する理由について、トランプは直接、何も言わなかった。ティラーソンは、トランプについて、「クソったれの間抜け」と会議で言ったことがリークされていた。
自分の思いつきだけで、専門家の助言も無視して強大な権力を行使しようとしたトランプは、アメリカと国際社会に大いなる災厄をもたらしました。残念なことに、そんなトランプの蛮行を今なお偉業だと信じこんでいる人がアメリカにも日本にも少なくないという現実があります。フェイクニュースに毒されてしまった人を目覚めさせるのは容易ではありませんよね...。
(2020年12月刊。2500円+税)

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