弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年3月 4日

砂戦争

社会


(霧山昴)
著者 石 弘之 、 出版 角川新書

全世界で高層ビルが次々に建てられていくなかで、コンクリートの原料となる砂が世界的に不足しはじめて、争奪戦が始まっていて、闇ビジネスが横行しているとのこと。ええっ、なんということでしょうか、信じられません。だって、世界中に大砂漠があちこちにあるじゃありませんか...。ところが、この本によると砂漠の砂はコンクリートの原料として使えないというのです。これはビックリ、です。どうして、でしょうか...。
砂漠の砂は、コンクリートの骨材として使えない。セメントに混ぜるには細かすぎるうえに、角がないために砂同士がからみあうことができない。そのため、セメントに混ぜても、コンクリートの強度が得られない。そのうえ、砂漠の砂には塩分含有量が多すぎる。海砂と同じように、アルカリ骨材反応を起こして建造物の強度や安全性が脅かされる。砂漠に植物が育ちにくいのは、水の不足だけでなく、塩分が多いため。
ドバイのような中東の湾岸諸国は、建設ラッシュが続いているけれど、ビル建築用の砂は、すべて海外からの輸入に頼っている。砂漠の国々が砂を海外から輸入する。このパラドックスは冗談でもなんでもない。いやはや、なんということでしょうか...。
世界の構想ビルのうち、300メートルをこえる超高層ビルは世界で178本もあるが、そのうち中国が88本を占めている。いやはや、これはすごいことですよね。世界中の超高層ビルの半数ほどが中国所有だったなんて...。
中国は年間25億トン近いコンクリートを消費している。そして巨大ビルの建設ラッシュによって、砂の需要は増え続けている。
ドバイの人口における自国民の割合は、白人が8%、外国人が9割以上を占める。
インドでは砂マフィアが暗躍している。砂マフィアは、インドの犯罪組織のなかでも、とくに強大。反対するジャーナリストやNGOの活動家、ときには取り締まる役人や警察官に対しても暴力をふるい、殺害もいとわない。インドでは、2020年までに48人のジャーナリストが殺害されたが、そのうちの44人は砂にからんでいる。
シンガポールは、政界最大の砂輸入国。そして周辺のインドネシア、カンボジア、マレーシアはシンガポールへの砂の輸出を禁止した。
ベトナムの砂埋蔵量は23億立方メートルで、あと十数年で枯渇してしまう。
再生プラスチックを道路舗装の砂の代替品として実用化されつつある。コンクリート中の天然砂の10%をプラスチック屑(くず)に置き換えると、年間8億トンの節約になる。
超高層ビルの4割が中国にある、その中国は年に25億トンものコンクリートを消費している。アメリカが20世紀の100年間に使ったコンクリートの総量は45億なので、中国の2年分でしかない。
世界中で巨大ビルの建設ラッシュが続くなかで、砂の需要は増え続けている。
地震国・日本で超高層ビルに居住して生活しようという人の気持ちが分かりません。少し前に川崎で超高層マンションの地下が水害にあって、エレベーターが止まり、水がストップしてトイレが使えないという事態がありました。どんなに近代的な設備にしたところで、電気と水道が止まらないという保障はまったくないのは明らかだと思うのですが...。
砂もいずれ枯渇するということ、すでに争奪戦が始まっていることを初めて知りました。
(2020年11月刊。900円+税)

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