弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年3月 2日

国際水準の人権保障システムを日本に

司法


(霧山昴)
著者 日弁連人権擁護大会実行委員会 、 出版 明石書店

2019年10月に徳島で開かれた日弁連人権擁護大会のシンポジウムが本となりました。
このシンポジウムは、個人通報制度と国内人権機関という二つの人権保障システムの実現を目ざしていましたが、どちらも聞き慣れないものです。
個人通報制度とは、国際人権条約で保障された権利を侵害された人が、国内の裁判などの救済手続でも権利が回復しないときに、条約機関へ直接、救済申立ができる手続のこと。日本は、8つの国際人権条約を批准しているが、これらの条約に附帯されている個人通報制度を導入していない。8つの条約とは、自由権規約、社会権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、子どもの権利条約、障害者権利条約、強制失踪条約。
また、国内人権機関とは、人権の保障と促進のために設置される国家機関で、世界では120をこえる国・地域に設置されているが、日本にはない。
日弁連は、このシンポジウムを受けて個人通報制度を直ちに導入し、国内人権機関もまたすぐに設置することを求める決議をしています。
日本は、国際人権条約を批准・加入しているけれど、個人通報制度を利用できるようにするためには、政府は選択議定書の批准が受諾宣言をしなければならないところ、何回も勧告されているのに日本政府は無視し続けている。
たとえば、弁護人の立会なしの取調べは、自由権規約に反するという個人通報ができるはずなのに、それができない。
日本の女性差別の深刻な実情は、森喜郎前会長(オリンピック委員会)の発言で、はしなくも露呈しましたが、女性の8割は収入が200万円以下で、非正規労働者の7割が女性というところにあらわれています。これも、国際機関に訴えることができるはずなのです。
韓国には、国家人権委員会があり、年に1万件の申立があるとのこと。そして、その事務総長をつとめた人権活動家がシンポジウムで報告しました。
韓国では、今では取調べを受けている被疑者に対して弁護人が立会してうしろでメモを取っているのがあたりまえになっているとのこと。日本は韓国よりずっと遅れています。
国家人権委員会の独立性を確保するためには、法務部(法務省)からの人的独立、そして予算の独立性を強化する必要があると強調されています。なるほど、ですね。
少し前まで、最高裁判事だった泉徳治弁護士もビデオレターで個人通報制度は絶対に必要だと強調しています。泉弁護士は、裁判所内でまさにエリートコースを歩いてきた元裁判官ですが、個人通報制度が導入されると、最高裁も国際人権条約違反の主張に正面から向きあい、真剣に取り組むことになり、それが憲法裁判の質を高めるからと言います。
日本では、国際人権条約をいくつも締結しているけれど、個人通報制度がなく、活用されていないため、神棚に祭られて状態になっている。これを日常生活のなかで活かしていくためには、個人通報制度・国内人権機関の2つがどうしても必要だと泉弁護士は繰り返し強調しています。まったく、そのとおりです。
300頁、3000円の本で少し難しい気分にもなりますが、日本も国際水準レベルで人権保障してほしい、そんな声を高らかにあげるため、あなたも、ぜひ読んでみてください。
シンポジウムのコーディネーターをつとめた小池振一郎弁護士(東京二弁)は、受験仲間で、同期(26期)同クラスでした。贈呈していただきました。ありがとうございます。
(2020年12月刊。3000円+税)

 すっかり春になりました。庭のチューリップが2本、咲いています。ほかは、まだまだです。雑草を抜いてやりました。種ジャガイモを植えていたところから芽が出ています。
 花粉症のため、目がかゆく、ティッシュを手放せません。
 近くの山寺(普光寺)の臥龍梅も満開。コロナと花粉症さえなければ、春らんまんで心も浮かれてくるのですが、さすがに今年はそうはなりません。残念ですが...。

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