弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年2月11日

元彼の遺言状

司法


(霧山昴)
著者 新川 帆立 、 出版 宝島社

女性弁護士がミステリー大賞を受賞というので、早速よんでみました。
超大金持ちの遺産相続の話なので、田舎弁護士の私にはまったく無縁の世界ですし、「報酬150億円」なんて金額が出てくると鼻白むばかりなのですが、ともかく、日本一大きな法律事務所につとめているという女性弁護士の話が、あまりにも現実離れしている割には、ちょっと目が離せないストーリー展開なのです。つまり、発想力、キャラクター造形力のすごさに引き寄せられたのでした。
ミステリーなので、内容の紹介はしません。ぜひ、最後まで読んで、なるほど、そういうことだったのかという驚きの謎解きにつきあってほしいと思います。まあ、小説の世界としては、ギリギリありうる展開になっていると思いました。最後まで、ええっ、このあと、どうなるの...、という伏線がたくさん張られていて、飽きせず最後までひっぱっていく文章力には思わず脱帽しました。モノカキを自称する私には、とても出来ないことです。残念なことに...。
著者はプロのマージャン士(師?)の資格も有するというギャンブラーですが、だったら弁護士なんてバカバカしくてやってられんよね...、ということになるのでしょうか。
主人公の女性弁護士はボーナスを去年は400万円もらったのに、今年は250万円だと言い渡された。それを聞いた女性弁護士は怒って、「250万円ぽっち」と言いつつ、「お金がもらえないなら、働きたくありません。こんな事務所、辞めてやる」と言って、日本一の法律事務所から飛び出してしまうのです。いやはや...。250万円のボーナスを、「これっぽっち」と言ってのける弁護士なわけです。私も、そんなセリフ、一度くらい言ってみたいものです...。
ともかく、この28歳の独身女性弁護士は、年収2千万円近いというのです。それなのに、サラリーマンの彼が婚約指輪としてプレゼントしようとしたのは、なんと、「わずか40万円の小さなダイヤの指輪」。たちまち、「みじめな気持ち」になったという。なんという別世界...。
こんなとてつもない別世界の話なんですが、ついつい悪趣味のように話の続きが知りたくなって、ひき続き読んでいったのでした。
「私なら、10億円くらい、コツコツ働いていれば、手に入れられるのだ」
ええっ、東京の女性弁護士で、そんな人が実際にいるのでしょうか...。いえ、きっと、いるのでしょうね、東京には...。
弁護士って、そんなにいい仕事だろうか。弁護士になってみて分かったことは、忙しさのわりには儲からないということ。
著者がつとめている日本一の法律事務所は24時間勤務体制で、カップラーメンをすすりながらパソコンに向かう弁護士がいるのです。
日弁連の機関誌『自由と正義』も登場します。いつもは、つまらないと飛ばし読みしていた記事を読むしかないといって...。
最後の50頁ほどは、いつもの喫茶店に入り、ホットのカフェラテを飲みながら、ようやく読了しました。結末を知らなければ、次の会議に集中できませんからね。実は、この本を昼間のうちに読んでしまおうと思って、早めに事務所を抜け出して電車に乗ったのでしたが、まったく正解でした。よく出来たミステリー小説です。
(2021年1月刊。1400円+税)

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