弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年2月 9日

命の砦

社会


(霧山昴)
著者  五十嵐 貴久 、 出版  祥伝社

 新宿の地下街で自殺志願者たちをネットで集めてガソリンで同時多発自爆テロが仕掛けられた。みるみるうちに地下街に大規模火災が広がり、あちこちに爆発まで発生し、大勢の人々が右往左往しながら焼死していく。まさしくノンストップ・パニック小説です。
そこに消防士たちがプロフェッショナルとして自らの生命を賭して焔のなかに飛び込み、人々を何とか救い出そうと活躍する。なるほど、地下街に大量のガソリンを持ち込み、自爆テロのようにして自らガソリンをかぶって火をつけたら、恐ろしいことになってしまうでしょう...。
 そのうえ、今ではパソコンやゲーム機などに大量にマグネシウムがふくまれていて、そこに水をかけると、かえって爆発してしまって大災害をひきおこす。いやあ、これまた恐ろしいことです。そんな状況が刻明に描写されていきますので、地下街の恐ろしさって、大水害のときだけじゃないということがよく分かりました。脱出口を日頃から気をつけておかなくてはいけませんね‥‥。この本を読んで、消防士集団のプロ意識の高さも再認識させられました。
 増強特命出場。異常事態に際しては、特別命令が発せられる。消防は地方自治体の管轄下にあり、それぞれ独立した機関。しかし、大規模災害時などでは、消防庁長官が長官命令を発令した場合に限って、全国の消防局の消防隊を現場まで人員派遣させることができる。火災発生のとき、警察の役割は避難誘導、人命救助が主。被害状況を把握するのも重要な任務だ。
 逃げるとき、一番危険なのはパニックに巻き込まれること。そして、まず顔を守る。視覚を失ったら、逃げることはできない。できるかぎり水を飲んでおく。やけどしても治りが早くなる。そして、絶対に炎を吸い込まない。気道火傷(やけど)は命にかかわる。姿勢を低くして、水に浸したハンカチで鼻と口を覆って煙を吸わないようにする。
水では消せない。そして水を使ってはならない炎がある。それがマグネシウム火災だ。マグネシウム火災に対する放水消火は厳重に禁止されている。マグネシウム専用消火剤を使う。パソコンは強度と軽量化のためマグネシウムが10%も使われている。スマートフォン・ゲーム機にも、だ。恐ろしい世の中なんですね...。
(2020年10月刊。1700円+税)

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