弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年12月 1日

ハポンを取り戻す

フィリピン


(霧山昴)
著者 河合 弘之、猪俣 典弘 、 出版 ころから

ハポンとフィリピン残留日本人のこと。
フィリピンに日本人が戦前からいたことはうっすら知っていましたが、明治になってからの日本は積極的な移民を送り出しの国であり、ハワイだけでなく、フィリピンにも多くの日本人が移住していたのでした。
戦前のフィリピンには、3万人をこえる日本人がいて、アバカ麻の生産などに従事していた。そして、第二次大戦中に、フィリピン戦線で、日本人は軍民あわせて51万8千人の戦没者を出したが、フィリピン人は、その2倍をこえる110万人もの犠牲者を出している。
フィリピンでハポンというと単に「日本人」という以上に差別的、否定的な意味をこめて使われることが多い。
ハポンと呼ばれる残留日本人たちは、みなフィリピンで生まれ、フィリピンで育った。戦前にフィリピンに移住した日本人移民の子どもたち。
先日、ウルグアイ大統領だった「ムヒカ」を描いた映画をみましたが、ムヒカの身近なところに日本人移民が生活していて、菊などの花づくりをしていたことが紹介されていました。
日本の敗戦後、日本人は強制収容所に入れられ、多くの日本人は日本へ強制送還された。このとき4000人ほどがフィリピンに残留した。
父が日本人なら、その子は日本人となる。これは、日本もフィリピンも同じこと。
フィリピン2世たちの多くは父親と死別していた。父親は兵隊にとられて戦死したりしていた。日本からもフィリピンからも、単に敵意と疑惑の目を向けられていたのが、2つの国にアイデンティティをもつ2世たちだった。ところが、戦争によって、死んだ父親が本当に日本人なのか証明することが難しいのです。2世たちは、日本人になりたいのではなく、「である」ことを確認したいということ。
フィリピン残留日本人は無国籍状態となっていて、これは、早急に解決すべき人権課題なのだ。
河合弘之弁護士は日本国内で有数の大型事件を手がけたあと、最近では原発なくせ訴訟で大奮闘し、「日本と原発」などの映画まで製作していることは知っていましたが、フィリピン残留日本人の人権問題に関与して献身的に活動していることを、この本で初めて知りました。日本政府の方針で海外へ出ていった日本人移民の子孫を見捨てたらいけないと痛感させられた本です。
(2020年7月刊。1600円+税)

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