弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年11月18日

血族の王

社会


(霧山昴)
著者 岩瀬 達哉 、 出版 新潮文庫

松下幸之助はやはり神様ではなかったというのが、私の読後感です。
幸之助の発想は、すべて、どうやったらもうかるか、だ。なので、目先の話ではない。長く、確実にもうけるには、どうしたらいいか。日本にとって、アメリカの意向に従うしかない。そうしたら経済援助も市場開放もしてくれて、みんながもうかる。そのなかで自分も多いにもうけさせてもらう。そんな考えだ。
幸之助の感性は鋭い。人情の特徴を敏感につかみとり、体験に根ざした言葉で訴えかける、それで販売店の心をつかんだ。そのために、コンピューターを一掃してしまった。
コンピューターに幸之助は偏見をもっていた。その点では遅れていた。
娘婿の松下正治は東大卒で、頭はいいが、物づくりの経験をしていないし、商売の苦労もしていない。人使いも下手。何か問題が発生すると、ただ、怒るだけで、しかも居たたまれないくらいに理詰めでやってしまうので、重役陣からも事業部長からも、いまひとつ信用がなかった。なーるほど、なんとなく分かりますね...。
幸之助の真骨頂は、粘りだった。いったん取り組んだ仕事は、結果が出るまでやめない。良い結果が出るまで続けるので、失敗がない。ふむふむ、これも分かります。
幸之助は、社員の待遇改善につとめた。35歳で自分の家がもてる従業員持ち家制度、死亡した従業員の妻子への遺族育英制度、定年延長したうえ退職金の増額...。また、企業年金として破格の支給率を保証する福祉年金制度...。これはこれはいいことですね。
幸之助は、いくらか出来が悪くても、金太郎飴のように自身に従順で、忠誠という点で変わらない部下をかわいがった。逆に、どんなに功績があっても。幸之助に断りなく独断専行する者を決して許さなかった。ワンマン経営者にありがちな誤まりですよね、これって...。
録画の点で、ベータ方式より、VHS方式のほうが録画時間が長くなるので、幸之助はVHS方式を選んだ。というのも、ベータ方式の1時間に対して、VHS方式は2時間が基本のうえに、4時間録画に向けて開発中だったから。アメリカではアメフトの試合が3時間以上になるので、VHS方式が好まれた。なーるほど、ですね。
社長が松下正治から57歳の山下俊彦になるとき、80歳の幸之助は抵抗した。
それは、幸之助の言いなりになる番頭たちを経営陣から外すことを意味するものでもあったからだ。幸之助は、自分に仕えた役員OBを集めて山下社長を辞めさせる会までつくった。うひゃあ、まさしく典型的な老害ですね...。
幸之助もまた、おそろしく凡人だった。幸之助は孫の松下正幸を社長にしたかった。しかし、山下俊彦は正幸を棚上げしてしまった。
幸之助には世田谷夫人と呼ばれる第二夫人がいた。それを清水一行が『秘密な事情』で明かした。幸之助は世田谷夫人とのあいだに4人の子をもうけ、成人すると、松下関係の会社で面倒みさせた。世田谷夫人は、幸之助より30歳も年下。幸之助は東京・神楽坂の一番人気の芸者(20歳前)を見初めて、大阪に連れていった。
子どものころ、ナショナルの家電製品は身のまわりにいくつもありましたし、テレビのコマーシャルにも身体がなじんでいました。立志伝そのものの幸之助の負の面もふくめて、あまりに人間臭い評伝となっています。
神様とか天才ともてはやすほどの人物だったのかという疑いが確固として強まり、私は「ますます尊敬」という心境には、とてもなれない本でした。
(2019年7月刊。630円+税)
 
 日曜日、1年ぶりに仏検(準1級)を受けました。6月はコロナ禍のため中止になったのです。前の日はホテルに泊まり込んで過去問を復習し、当日も朝早く起きて万全の体調でのぞみました。
 自己採点では120点満点で71点でした。6割が合格点ですので、きわどいところです。最近は毎朝、NHKフランス語応用編の2日分を必死で書きとりしています。すぐに忘れてしまい、いつもいつも新鮮な思いですが、なんとかフランス語力を少しでも落とさないようにがんばっています。
 試験会場の大学に行くと、学生がサッカーの練習試合をしていました。また、各種の資格試験の受験生がたくさん構内にたむろしていましたが、対面授業はやられているのかなと心配になりました。

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