弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年10月26日

えげつない!寄生生物

生物


(霧山昴)
著者 成田 聡子 、 出版 新潮社

カマキリの寄生虫・ハリガネムシの幼生(赤ちゃん)は、川底で、自分が昆虫に食べられるのをじっと待っている。食べられると、昆虫の腸管のなかで「ミスト」に変身し、休眠する。この「ミスト」はマイナス30℃でも凍らずに生きていける。そして、コオロギが昆虫を食べて、コオロギの消化管に入って大きく長く成長する。大人になると、宿主のコオロギをマインドコントロールして川に向かわせ水に飛び込み自殺する。するとハリガネムシがおぼれたコオロギの尻からゆっくり、にゅるにゅるとはい出してくる。
いやはや、とんだストーリーです。誰がいったい、こんなことを思いついたのでしょうか。すべてが偶然にたよった「一生」なんです。
ハリガネムシは寄生したコオロギの神経発達を混乱させ、光への反応を異常にして、キラキラとした水辺に近づいたら飛び込むように操っている...。うひゃあ、す、すごい謀略です。
そして、なんと、自ら入水した昆虫によって川魚のエサが確保されているというのです。自然の連環・連鎖は恐ろしいほど、よく出来ています。
ゴキブリは、全世界に4000種、1兆4853億匹もいる。日本だけでも236億匹。ゴキブリは3億年前の古生代、石炭紀に地球に登場した。ゴキブリは好き嫌いがなく、何でも食べられる。ゴキブリは、とても繁殖力が旺盛。1匹のメスが子どもを500匹も生む。家にメスのゴキブリを1匹みたら、500匹はいると思わないといけない。
そして、ゴキブリは素早い。1秒間に1.5メートル走る。これは、人間の大きさだと1秒間に85メートルのスピードなので、東海道新幹線より速い。
ところが、エメラルドゴキブリバチは、ゴキブリに覆いかぶさって、針を刺す。すると、ゴキブリは逃げる気を失い、まるでハチの言いなりの奴隷になってしまう。ハチは、このあとゴキブリの触覚を2本とも半分だけかみ切る。そしてじっとしていると、ハチの幼虫がゴキブリの体に亢を開けて体内に侵入していく。ゴキブリが生き続けたまま、ハチの子どもに自分の内臓を食べさせる。ゴキブリの内臓をすっかり食べ尽くして、空っぽになってからもハチの幼虫はしばらく殻の内側にひそんでいて、やがて、成虫になって飛び出す。
いやはや、ゴキブリを食い物にするハチがいただなんて...。ところが、このハチは縄張り意識が強く、またゴキブリの強い繁殖力のほうが優っているため、このハチがいくらがんばってもゴキブリが絶滅することはないのです。これまた、自然の妙ですね...。
同じようにゴミグモを思うように操って、巣を張らせて、最後は体液を吸い尽くすクモヒメバチの残虐さも紹介されています。
まことに「えげつない」としか言いようのない寄生生物が、面白おかしく紹介されている本です。世の中は、まさしく不思議な話にみちみちているのですね...。
(2020年7月刊。1300円+税)

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