弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年10月 9日

生きている裁判官

司法


(霧山昴)
著者 佐木 隆三 、 出版 中央公論社

東大法学部卒で成績抜群だった裁判官が、東京地裁で違憲判決を主導したので、和歌山地裁へ転勤。そこで戸別訪問禁止は憲法違反なので無罪とするという画期的な判決を出した。すると、岐阜地裁そして福井地裁に転勤。そこで福井県の青少年保護条例は憲法違反の判決を出した。その後、横浜家裁へ異動し、次は浦和地裁川越支部に配属。さらに静岡地裁浜松支部へ飛ばされ、再び浦和地裁川越支部に配属された。
いやはや、意見判決を書いたりして、「上」からにらまれると、「シブからシブへ」ドサまわりさせられる見本のような歩みをした裁判官がいたのですね。この本では氏名が書かれていませんが、14期だというので調べてみると安倍晴彦判事のことでした。
最高裁判所というのは、このように露骨な人事差別をしたのです。それは俸給にも格差をつけるという、えげつなさでした。同期より5年半も昇給が遅れたというのですから、ひどいものです。
3人の裁判官が話し合うのを「合議(ごうぎ)する」と呼んでいて、かつては、それぞれ独自の立場で、事故の見解をはっきり主張して、議論していた。そして、ときどき「合議不適の裁判官がいる」と言われるほど、裁判官のなかに、他人の意見に耳を傾けない人がいた。
ところが、今では、若い判事補はあまりモノを言わなくなり、困っているとのこと。
なるほど、なんでも正解志向の世界で育ってきたエリートたちは、てっとり早く、「正解」を知りたがる。効率よく「正解」を知って、判決文を起案したいので、この事件の論点を早くつかみたいのだ...。
日本の司法は閉鎖的な体質をもっているので、その体質を改善する唯一の方法は市民が裁判に関心をもつことなのだ...。
そうなんです。なので、弁護士会による裁判官評価アンケートは大きな意義があると思います。
27年も前の本ですが、今にも生きる話ばかりなので、一気に読了しました。
(1993年6月刊。980円+税)

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