弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年10月 7日

ルポ・つながりの経済を創る

スペイン


(霧山昴)
著者 工藤 律子 、 出版 岩波書店

いま日経新聞は「太陽の門」というスペイン内乱を扱った小説を連載中です。あとで政権を握ったフランコ軍は初めのうちは反乱軍でした。作者の赤神諒はペンネームで、弁護士です(もう弁護士の仕事はしていないのかも...)。
スペイン政府派のほうは国際義勇軍が支援していましたし、そのなかにヘミングウェーもいたのでした。フランコ独裁政権が樹立すると、知識人をはじめとする多くの反ファシズムの人々があるいは銃殺され、あるいはフランスなど国外に逃亡していきます。
そんな知識しかないスペインでは、いま市民運動が大きく盛り上がっているようです。
「もういい加減、真の民主主義を!」
今の日本にも必要なスローガンです。モリ・カケ、桜...。すべてをあいまい、うやむやにして「アベ政治」を継承する。とんでもないことです。もう、いい加減にしてよ。そう絶叫したい気分です。
スペインでは2011年5月15日の市民デモは空前の盛り上がりを見せた。そして、これが市民運動「M15」(5月15日運動)の始まりだった。
15Mの精神を受け継ぐ市民政党「ポデモス(私たちはできる)」は、2015年12月の総選挙で第三党(69議席)になり、同年5月の地方議会選挙でマドリード、バルセロナ、サラゴサ、バレンシアなどの市政を担当することになった。そして、2018年6月のPSOE新政権では、閣僚20人のうち女性が11人を占めた。
すごいですね。日本にも女性大臣はいますが、森雅子って人は弁護士とは思えませんし、稲田朋美とか片山さつき、高市早苗って、女性そして弱い者の権利を守るという視点がまったく欠落していますので、何も期待することができませんよね...。
ポデモスが市政を担当して、何が、どう変わったのか...。
マドリード市は、市民による社会活動に助成金を出している。すごいですね。
「時間銀行」とは、人々が銀行、つまりグループをつくり、そこに自分がメンバーに提供できるサービスを登録し、お金ではなく「時間」を単位に、必要なサービスをメンバー間で提供しあう仕組みだ。スペインには280あまりの時間銀行があり、そのうちの100行ほどがとりわけ積極的に活動している。日本にも時間銀行の支店がある。日本では、「世代間のつながり」が時間銀行を利用する目的の一つとなっている。
最近ふえている中東やアフリカからの難民を積極的かつ具体的な形で巻き込んでいる時間銀行もある。たとえば、難民にとって必要なスペイン語の習得を時間銀行によるボランティアが活躍している。
マドリードには「モラ」という地域通貨がある。生ゴミや使用ずみの食用油のリサイクルを推進している。生ゴミや使用ずみ食用油をもっていくと、いくらかの「モラ」をもらえる。これは、「モラ」利用者が開くバザーで使える。
スペインでは、いま労働者協同組合が活発に活動を展開していて、拡大中だ。全国に2万の組合が存在し、組合員数は25万人をこえる。
たとえば、ある協同組合には50人の労働者がいて、そのうち20人が障がい者だ。そして、ワインとオイルをつくっている。保育園から、小・中・高そして大学まで擁する労働者協同組合もある。ここでは、教科書をつかわず、教員が自由に教えている。そして、協同組合を支える法律事務所まである。
スペインではすでに市民相互の連帯で変えていく新しい試みがいろいろと進行中のようです。日本だって負けてはおれませんよね。
自助、自立、そして共助。なんでも自己責任だというのなら政治は必要ありませんし、税金だって納めるのがバカバカしい限りです。自助できない状況になったら、とりあえず共助、公的援助を当然のように受けられる。そんな世の中の仕組みにしなければ、あまりに息苦しく、辛い社会(世の中)になってしまいます。
7年も続いたアベ政治の致命的欠陥は、友だち優先の露骨な政治をすすめたため、真に相互援助して助けあうという温かい関係がすっかり台なしにされてしまったことだと思います。なんでも自己責任と片付けられ、すぐに自粛警察が登場してくるようでは、この世の中、息が詰まるばかりです。
(2020年4月刊。2000円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー