弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2020年9月21日
教養としてのフランス史の読み方
フランス
(霧山昴)
著者 福井 憲彦 、 出版 PHP
フランスのルーツは複雑。フランス人のルーツはケルト系ガリア人であると同時に、ラテン系ローマ人であり、ゲルマン系フランス人であるとも言える。
フランスは、その国土の形からエグザゴン(六角形)とも称される。アメリカのペンタゴンは五角形でしたか...。
フランスは、フランク王国が出発点となっていて、ラテン語のフランクスは、非常に勇敢な、大胆な人々という意味。
フランスでは、中世までは属人原理で人は動いていた。属人原理では、もし君主がだらしないと思ったら、見限って別の君主につくということが可能だ。
カペー王朝は1328年まで、15代341年間もの長きにわたって続いたが、その大きな要因は歴代の王が直系の跡継ぎ(男子)に恵まれたことにある。これをカペー王朝の軌跡ともいう。ちなみに、カペーとは、一種のあだ名であり、修道院長として羽織っていたコートを意味する。
フランスでは長子相続が原則となったことから、相続にあぶれた人たちの受け皿となったのが一つは教会と修道院であり、もう一つが国王や領邦君主のもとで騎士として仕えることだった。
1906年、最初の十字軍が行われた。このころ、ヨーロッパよりもアラブ・イスラム圏の方は経済的にも文化的にも優位にあった。当時のヨーロッパには輸出する産物はほとんどなかった。ヨーロッパにとって、地中海の東は富の豊かな地域だった。なので、所領のない騎士たちは、領地の獲得と一攫千金を夢み、富を求める商人たちも同行していた。
キリスト教会が庶民への布教に力を入れるのは10世紀以降のこと。それまでは支配者である貴族層の宗教だった。
フランスの王家とイングランドの王家は、王家そのものの血統だけでなく、そこにさらにフランス人の王女が嫁ぐという形で、複雑につながっている。
百年戦争は、フランスにとっては、イングランドとの戦争というだけでなく、内戦でもあった。すなわち、相続争いにからんだ王位継承と勢力範囲の拡大争いだった。
フランスの王権強化は必ずしもスムーズに進行したわけではない。
1643年、ルイ13世が40歳で亡くなったとき、ルイ14世はまだ5歳に満たない幼児だった。母が摂政となり、イタリア出身のマザランが宰相となった。そしてフロンドの乱が起きて、マザランは国王一家とともにパリを脱出して、郊外に逃れた。この嫌な記憶から、長じたルイ14世はヴェルサイユ宮殿を築いて住むようになった。
ルイ14世は、1661年に宰相マザランが亡くなり、22歳にして実権を握った。そして、貴族改めを実施した。ルイ14世の統治期間は54年間に及び、そのうち31年間は戦争をしていた。ルイ14世は、戦場に自ら足を運び、兵士を鼓舞した最後の国王だった。
ルイ14世は戦争に莫大な経費をつぎ込んだが、同じくヴェルサイユ宮殿の建設と宮廷社会にも莫大な資金をつぎ込んだ。実は、これは、ありあまる富をつぎ込んで壮麗な宮殿をつくったのではない。苦しい財政のなかで、莫大な借金をしてつくりあげたものだ。それは、王権の強さを象徴的に示すものが必要だったから。人の心をつかむには、文化的かつ象徴的なもので王権を示すことが必要であるとルイ14世は考えたことによる。
ルイ14世の治世において、実際の経済状態は決して良好ではなく、借金によって支えられていた。それは国内の金融家たちからの借金だった。たとえば徴税業務を請け負う人々だった。ところが、ルイ14世はナントの王令(勅令)を廃止して、ユグノーを弾圧したため、20万人もの大量のプロテスタントが国外に亡命した。これによってフランス経済は大きな打撃を受けた。ユグノーには非常に優れた技術者や職人・承認が数多く存在していたからだ。
ルイ14世は絶対王制といっても、限界があった。戦争のための特別税にしても、諸侯の合意を得ながら徴収されていた。したがって、ルイ14世が亡くなったとき、フランスの財政は危機的な状況に陥っていた。ルイ16世は、ルイ15世の孫にあたるが、兄が2人いたので、王位に就くとは思われていなかった。そのため、王になるための教育をまったく受けていなかった。フランスの国庫は、すでにひどい赤字状態にあった。
ルイ16世は無能な王だと言われるが、帝王教育を受けておらず、国政に強い関心をもっていなかったのは事実。
ルイ16世は、自分の考えにもとづいて行動するのではなく、周囲の圧力に負けて決断していた。優柔不断の態度をとり続けたため、ついに国民から「裏切り者」と断罪されてしまった。
フランス革命における民衆の暴力性は、王制下の暴力的なやり方を見てきた民衆が、それにならっただけのことで、民衆だけが野蛮で暴力的だったわけではない。
大学生のとき以来ずっとフランス語を勉強していながら、ちっともうまく話せませんが、フランスに関心を持つ身として、とても面白くフランス史を勉強することができました。
とりわけ、「太陽王」と呼ばれたルイ14世と民衆によってギロチンにかけられたルイ16世についての記述は知らないことばかりで、目が洗われる思いがしました。
(2019年12月刊。2000円+税)