弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年9月10日

深層、カルロス・ゴーンとの対話

司法


(霧山昴)
著者 郷原 信郎 、 出版 小学館

著者は元特捜検事の弁護士です。その指摘することの多くは納得できるのですが、次の点は、まったく同意できません。
経営者の高額報酬は悪かという点です。日産はその利益が7500億円なので、経営者であるゴーンに支払われた年20億円の報酬は「悪」として非難されるべきことではない。著者は、このように主張します。本当に、そうでしょうか...。従業員、現場で働いている労働者の賃金との対比はまったく考慮の外においていいものなのでしょうか、私にはとうてい承服しがたいところです。
そして、「フリンジ・ベネフィット」というものがあるそうです。
レバノンとブラジルに日産(ないし子会社)所有の住宅があり、ゴーンとその家族が自宅として使用しているものがあった。また、プライベート・ジェットもゴーンの自家用飛行機として使われていた。
これらは、著者の言うとおり刑事責任が生じるものではないかもしれませんが、いずれも、いくらなんでも私物化がひどすぎる気がしてなりません。サラ金最大手の武富士の武井会長の自宅が会社所有で、会社の研修所名目だったことを思い出します。
ニッサンの従業員なら、誰でも使える家であり飛行機であるならともかく、実際にはゴーンとその家族しか使えなかったとしたら、所有名義はともかくとして、民事責任だけではないような気もします...。
ゴーン氏の事件は、特異な経緯で刑事事件化された特異な事件であり、一般的な刑事事件の「犯罪者逃亡」として扱うべきではない。
著者のこの指摘には納得できるところがあります。それにしても、著者がこの本で指摘しているところですが、ゴーンの不正を調査したのが監査役だったというのは、私も腑に落ちません。
監査役が社長(代表取締役)に言わずに巨額の費用をかけて調査できるはずがない。まさしく、そのとおりだと思います。では、いったい、誰が、ゴーンの「不正」を調査したのでしょうか...。いろいろ謎だらけの事件です。もっともっと知りたいところがたくさんあります。
(2020年4月刊。1700円+税)

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