弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年8月21日

大地よ! 宇梶静江自伝

人間


(霧山昴)
著者 宇梶 静江 、 出版 藤原書店

日本は単一民族だなんて、アベ内閣の大臣が今なおヌケヌケと放言するのですから、たまりません。北海道にアイヌ民族がいることは厳然たる事実であり、今では法律でも認められているものなのです。
2019年4月、アイヌ新法が制定され、国としてアイヌを先住民族として認めた。
明治32年(1899年)に制定された「北海道旧土人保護法」では、アイヌは「旧土人」とされていたが、100年後の1997年にアイヌ文化振興法が制定されて、「旧土人保護法」は廃止された。
北海道には2万4千人のアイヌがいて、東京にも5千人のアイヌが暮らしている。しかし、半数はアイヌと名乗っていない。アイヌの実態調査(東京都)の1回目、1974年(昭和49年)には700人弱のアイヌ人が回答したが、1989年(平成1年)には2700人に増えた。
この本の前半は、自伝ですから、当然のことですが、その生い立ち、両親と兄姉たちのことが語られています。両親とも文盲だったようです。著者は、そのなかでなんとか学校に行き、本を読めるようになり、ついには詩人としてデビューしたのでした。
生い立ちのなかでは、アイヌの人々の貧しさがとことん語られています。そのなかで姉たちが奉公に出て、結婚し、苦労して若くして病気で亡くなっていくのでした。
アイヌであるがための差別で苦しめられていますが、著者は、くじけることはありませんでした。そして、敗戦の年、著者は12歳。学校には、ほとんど行っていません。それでも20歳で中学校に行くのです。そこは、札幌の北斗学園という、お嬢さん学校でしたし、7歳も年長ですから、差別は受けなかったようです。
その後、東京に出て喫茶店につとめ、結婚し2人の子どもをもうけ、詩を書きはじめました。壷井繁治が著者の詩に注目したのでした。『二十四の瞳』の壷井栄の夫である詩人です。
そして、朝日新聞に1972年、アイヌとして叫びをあげたのでした。いやはや、たいした行動力です。
アイヌの踊りにリハーサルなんかない。著者の「エッサホイ、エッサホイ」という掛け声にあわせて即興で踊る。アイヌの音楽は手拍子と掛け声。すべて即興。お祈りの儀式やセレモニーが終わったあと、唄って踊る、跳ねる。すべて即興。アイヌは、「ホレ、ホレ」、(おいや、うれしいな、ありがとうカムイ、聞いていますか、私はこうして生きています...)と即興で歌う。
アイヌには見世物のような唄や踊りはない。ともに喜びを分かちあうためのもの、カムイが喜んで、自分も喜ぶ、そうするために唄い、踊る。
1975年ころ、著者43歳、福生(ふっさ)市にある「ゴーゴー喫茶」に誘われて行った。客は、ロック・ミュージックのリズムに乗って、ゴーゴーを踊っている。すると、著者の身体に眠っていた何かが急に目覚めたように、得も言われない衝撃に駆られた。自然に身体が動く。気がつくと、音楽に反応して、踊っていた。アルコールの飲めない著者はコーラを飲んだのみ。夢中で身体を動かし、リズムをとっている。その夜は、一晩中、踊り続けた。
なあるほど、そこが違うんですね...。身体の奥深くで反応するものがあるので、リハーサルなんて、必要がないというわけです。
1933年に生まれの現在87歳。ひき続き元気にお過ごしくださいね。アイヌの人々の実際を知ることのできる、いい本でした。
(2020年6月刊。2700円+税)

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