弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年8月18日

仏陀バンクの挑戦

バングラデシュ


(霧山昴)
著者 伊勢 祥延 、 出版 集広舎

仏陀バンクなんて、聞いたこともないコトバですよね。
これに似ているのがノーベル平和賞を受賞したインドのグラミン・ユセフ氏のグラミンバンクですが、それは5人の連帯保証人と20%ほどの利息が求められます。
これに対して、仏陀バンクはなんと利息をとりませんし、保証人も物的担保もとらないというのです。ええっ、そ、そんなのがうまくいくわけないでしょ...。そう叫びたくなりますよね。
でも、そこにちょっとした工夫・仕掛けがあるのです。お金の借りた村人は、お金を貸してくれた「仏陀」へのお礼として1ヶ月分の「お布施」を元金のほかに支払うのです。
ええっ、それじゃあ名目が違うだけで利息をとっているのと同じでしょ...。いえ、違うんです。この「お布施」は貸した側に入るのではなくて、そのまま次の村人への貸し出し原資として使われるのです。たとえば100人規模の村の場合、原資10万円を村人10人に1万円ずつ貸し、借りた村人は毎月千円ずつを返済していく。すると、1ヶ月後には、10人から千円ずつの計1万円が戻ってくるので、それを新しく村人へ貸し付けていく。
対象の村人は仏教徒で、信仰心があることが前提となっている。
この仏陀バンクは、バングラデシュでは2010年に始まった「四方僧伽(しほうさんが)」の主要プロジェクトだ。
バングラデシュはイスラム教国家であり、仏教徒は国民の1%にもみたない存在。
仏陀バンクによると、個人の自立だけでなく、人々の連帯心も生まれる。
バングラデシュの南東部にジュマ民族と呼ばれる先住民が暮らしている。顔つきは日本人とあまり変わらないアジア系モンゴロイド。そして、平原地帯に暮らすベンガル人仏教徒であるバハワ族がいる。この先住民ジュマとバハワという2つの仏教徒は微妙な関係にあり、決して仲がいいとは言えない。
村人にとっていいことずくめのはずの仏陀バンクなのですが、実際に現地に根づかせようと思ったら、2つの民族の対立心があったり、個人の功名心や嫉妬があったり、お金に目がくらむ人もいたりで、大変な苦労をさせられるのでした。なるほど、理想を現実のものにするのはいつだって大変なんですよね。
バングラデシュには、観光客がほとんどいない。観光産業はほとんどなく、旅行という概念がない。旅行者を狙った犯罪もなく、外国人料金も存在しない。人々は外国人が珍しくて仕方がない。
うひゃあ、今どき、そんな国があるのですね...。
道路には交通信号がほとんどない。排ガス規制もないので、大気汚染はひどく、絶え間ないクラクションで頭が痛くなる。世界一の最貧国で、ホームレスが多く、ストリートチルドレンがものすごい。少数民族の仏教徒はイスラム教徒に襲撃されたり、軍部から人権抑圧の対象となったりする。
そして、仏教徒内部のひがみ、やっかみ、虚栄心の張りあいなどで、仏陀バンクは、何度となく破局寸前になるのでした。そして、2016年7月には、ダッカでイスラム過激派による襲撃事件が起き、20人が殺害されましたが、そのうちの7人が日本人で、いずれもJICA関係者だったのです。
このような、次々にあらわれる困難を乗り越え、仏陀バンクは100ヶ村を目ざしつつ、なんとか半数を達成したようです。
すばらしい取り組みだと思いました。こんな地道な取り組みをしている日本人については、中村哲医師と同じように、もっともっとメディアは知らせてほしいものだと思います。
この本の発行は福岡の集広舎ですが、「四方僧伽」の事務局は北海道の石狩郡にあるとのことで、その地域的ギャップの大きさにも面くらいました。一読に値する本です。
(2020年4月刊。2000円+税)

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