弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年8月13日

マルゼルブ

フランス


(霧山昴)
著者 木崎 喜代治 、 出版 岩波書店

フランス大革命のとき、ルイ16世の弁護人となり、その後、本人も家族ともども断頭台で処刑されたという人です。久しくフランス語を勉強していますし、フランス革命についてもそれなりに本を読んでいたつもりなのですが、このマルゼルブという人物には、まったく心当たりがありませんでした。
ルイ16世の弁護人をつとめ、自らも処刑されたというのですから、どうしようない復古調の王党派だと思いますよね。ところが、この本を読むと、それは、とんでもない誤解なのです。
マルゼルブは、フランス国王の専制主義にたいしても、人民の専制主義にたいしても、ひとしく敵であった。マルゼルブは、その一方と戦ったために追放され、他方と戦ったために殺された。
マルゼルブがルイ16世の弁護人となり、身を捧げたのは、ルイ16世個人のためではなかっただろう。ルイ16世は、それには値しなかった。マルゼルブが身を捧げたのは、その72年の全存在の大義のためだったように思われる。
マルゼルブが処刑されたのは、テルミドール事件の3ヶ月前のこと。自らの弁護人に立ってくれたマルゼルブに対してルイ16世は感謝の手紙を書いている。
マルゼルブは、フランスの古い名門貴族の家に生まれた。ルソーと深くかかわり、ディドロの『百科全書』をはじめとする哲学者たちの著作が、ルイ15世のもとで出版統制局長だったマルゼルブの保護のもとで刊行された。マルゼルブは、また、租税法院の院長職にもついている。
出版統制局長として、「黙許」というものをマルゼルブは活用した。それまで年に50件だった黙許は、100件から200~250件に達した。マルゼルブのおかげで『百科全書』はフランスで刊行・流通した。
そして、マルゼルブは租税法院長として、高級官僚、つまり支配階級の一員でありながら、専制王制に対して、果敢に改革提言していた。
また、マルゼルブは、弁護士の自由と独立の重要性を次のように強調した。
「弁護士の身分の独立性と請願と印刷された意見書の自由とは、現在市民の唯一の救済手段であり、われわれの所有権を保持する唯一の防壁である」
マルゼルブは、ルイ16世の治世下の大臣の一人となり、いくつもの改革策を提言したが、ことごとく無視され、追放された。そんなマルゼルブが、ルイ16世の弁護人となって、必死に弁論したというのです。
日ごろ尊敬している高野隆弁護士(まったく面識はありません)が、このマルゼルブを紹介しながら弁論(刑事ではなく、民事です)したのをFBで読み、あわてて取り寄せて読みました。世の中、本当に知らないことだらけですよね...。
(1986年3月刊。2900円+税)

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