弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年7月30日

裏切りの大統領マクロンへ

フランス


(霧山昴)
著者 フランソワ・リュファン 、 出版 新潮社

毎日毎朝、フランス語をこりもせず書き取りしながら学んでいる身として、フランスはとても気になる国です。
2017年5月、フランス史上最年少の39歳の若さでエマニュエル・マクロンは大統領に就任した。2018年11月、黄色いベスト(ジレ・ジョンズ)運動が始まった。政党や労働組合などの組織が起こしたのではなく、中産の下から低所得層がネットを通じて声を上げ黄色いベストを着て街頭に出たのだ。彼らはマクロン大統領がすすめている新自由主義による社会保障の切り捨てなどに抗議した。
著者のフランソワ・リュファンはジャーナリストであり、今では国会議員でもある。マクロンの出身地であるアミアンの出身で、同じ中学・高校に通った。
マクロンは生まれてから今日まで、ブルジョワの内輪社会がはぐくんだ果実そのものだ。上層と下層とが交わらない社会的アパルトヘイトの産物であり、民衆から離れて、マクロンははるか遠くで生きてきた。目に見えない仕切りがマクロンたちエリートを囲んでいるが、暗黙の仕切りが存在することを自覚していない。無自覚で暗黙であるからこそ、仕切りは仕切りとしての力を発揮する。
黄色いベスト運動が始まるまで、貧乏な人々は、隠れて、こっそり苦しんできた。貧乏から抜け出せない屈辱、家族を守れない屈辱、家族にしかるべき幸福をもたらせない恥をかかえて...。フランス中が、まるで黄疸(おうだん)にでもかかったかのように黄色まみれになったとき、マクロンはいったいどこにいたのか。モロッコに、ベルリンに、アルゼンチンに、アブダビに、そしてルーマニアの大統領を迎えて一緒に美術館を見学していた。
マクロンは、自分が知らない国の大統領だ。知らないどころか、軽蔑している国の・・・。これが、この本(原著)のタイトルになっています。
著者は、マクロンが左翼を装ったことを厳しく糾弾しています。
マクロンのようなグランゼコル(エリート養成機関)出身者は、高級官僚になり、そのあと民間大企業に天下りし、そのあと再び官邸や省庁の高いポストに返り咲き、国家に仕える立場にありながら、内部から国家を解体する人たちだ。
マクロンは、ロチルド(ロスチャイルド)銀行に勤めた。マクロンの顔は自信と確信に満ちあふれている。そこには、挫折の痕跡とか苦悩、つまり何か人間らしいものが、まったく認められない。
フランスの製薬大企業サノフィに対してマクロンは経済大臣として1億2500万ユーロの助成金を交付した。このサノフィがつくったクスリの副作用として自閉症の子どもが生まれた。何十年にもわたって、サノフィは何万人もの子どもたちに自閉症を引き起こした薬を売っていた。なのに、サノフィは賠償せず、それどころかマクロン大統領はサノフィの社長を大統領宮殿の晩餐会に招待した。
マクロンは、20年来、超大金持ちの信愛の情に浸かって生きてきた。夕食をともにし、冗談を言いあい、信頼しあってきた。
マクロンは富裕税は効果がなかったと断言した。そして富裕税を廃止すると同時に、年金生活者の課税率を上げ、賃借人への援助金を切り下げ、政府援助の雇用契約を20万も削除した。
マクロンは民衆の誇り、名誉を傷つけている。民衆は馬鹿にされている。マクロンは、絶え間なく、貧乏人に教訓を垂れる。マクロン大統領は、どんなスピーチをするときでも、前もって原稿をチェックする人がいて、照明と撮影技師、舞台装置係、メイクを享受している。
わが日本のアベ首相は、いつだってテレビにはうつらないプロンプターの文字盤の原稿を棒読みしています。なので、いつも心に響かないのですが・・・。
マクロンは、テレビで微笑(ほほえ)む。いつでも微笑んでいる。そして、その微笑は凍りついた。それは死の微笑だ。サルコジやオランドには、まだ人間的な面があった。しかし、マクロンはプログラミングされたロボットのような技術的官僚なので、民衆は統計上の数字、収益を上げる変数の一つにすぎないから、暮らしが立ちゆかない庶民の苦しみや羞恥心、尊厳を傷つけられた痛みなんて、想像すらできない。
マクロンの若くて、のっぺらぼーな顔立ちを見るたびに、この本に書かれていることを思い出すことにします。
(2020年2月刊。2000円+税)

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