弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2020年7月29日
響きあう人権
司法
(霧山昴)
著者 大川 真郎 、 出版 日本評論社
私は著者とは弁護士会活動を通じて知己を得たのですが、著者自身は、その前には国際人権活動に活動の軸足を置いていたとのこと。この本を読んで、著者の国際人権分野での交友の広さを知り、とてもうらやましく思いました。
私自身は、アメリカに弁護士有志の視察で行ったとき、ろくに英語を話せず赤恥をかいたこと、弁護士会の役職に就いてベルリンの国際会議に参加したとき、壁の花でしかなく、東澤靖弁護士などの活躍をじっとみているだけだったことを、今さらながら冷や汗とともに思い出します。毎日毎朝フランス語を勉強していますが、これもボケ防止の側面が強くて、とても、まともなフランス語会話ができるわけではありません。今さら謙遜なんてする柄ではありませんので、これは残念ながら本当のことです。
それはともかくとして、本書で登場してくる国際舞台の広さには目をむいてしまいます。
ギリシャのペリアリ村、地中海のマルタ、フランスのノルドマン弁護士と裁判官たち。アメリカの弁護士・裁判官たち。そして、ソビエト(ソ連)の法律家たち。まだまだ、あります。スペインのマドリードのメーデー、キューバのカストロ大統領の大演説をじかに聞いたこと、インドでの国際会議、そしてフィリピン人の人権派弁護士が次々に殺される話、韓国・中国の人権派弁護士の苦難、その延長線上のオウムによる坂本堤弁護士殺害事件...。
国際会議では、カンボジアの大虐殺を免れた唯一の弁護士会と出会います。また、チリのアジェンデ大統領の下で司法大臣だった人たち。彼らは記念の写真をとることも拒絶したのでした。エジプトにも人権派弁護士がいました。モンゴルからも韓国からも、そして遠くトルコからも駆けつけた弁護士がいたのでした。
インドの国際会議の話では、熊本の竹中敏彦弁護士の話も登場します。目に見える形での貧富の差の激しさがありました。日本も、次第にそうなりつつある気がします。
国際会議に参加すると、通訳の日本語がとんでもないレベルのときがあり、まるで意味が分からなくなり、すごくフラストレーションがたまります。かといって自分では話せないのですから、レセプション(懇親会)に出るのは苦痛でしかありませんでした。一緒にアメリカに行ったことのある加島宏弁護士(大阪)の通訳は見事でした。
日弁連で一緒になることの多い上柳敏郎弁護士を尊敬する所以です。
フィリピンの人権派弁護士は今も殺害されているようです。本当にひどい国だと思います。その話を聞くたびに心を痛めます。
韓国の「民弁」の活躍は目を見張るものがあります。長く続いた軍事政権があまりにひどかったことの反動からでもあるのでしょうね。韓国映画『弁護人』は、私もみましたが、あとで大統領になった廬武鉉(ノムヒョン)弁護士がモデルです。そして、今の文在寅(ムンジュイン)大統領も「民弁」出身です。先日セクハラ疑惑の渦中で自殺したソウル市長も「民弁」でしたよね。「民弁」出身の弁護士が2人も大統領になったり、ソウル市長になったり、いったい日本とどこが違うのでしょうか。
枝野幸男・立憲代表や福島みずほ・社民代表も人権派弁護士と言っていいのだと思います(どれほど実績があるのか、残念ながら知りませんが...)。が、国民の人気という点では、韓国に比べて今ひとつですよね。そして、自民党には森まさ子とか稲田朋美という、司法試験の合格レベルを疑われるという、まさかの低レベルのとんでもない弁護士もいますが...。
「シンク・グローバリー、アウト・ローカリー」(世界を視野に、行動は足を地に着けて)をモットーとして生きてきたつもりの私ですが、もっと国際的な交友を深めておくべきだったと反省するばかりでした。そんな反省を迫られる本ではありましたが、読後感はすかっとさわやか、というよりほのぼの感がありました。心優しい著者の人柄のにじみ出た、読みやすく分かりやすい文章にも改めて感銘を受けました。わずか150頁足らずの本でしたので、届いたその日のうちに読了し、その直後に一気に、この書評を書きあげたのでした。ひき続きの健筆を期待します。
(2020年7月刊。1500円+税)
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